略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
女性にとって母親業とキャリアの両立は永遠の課題。バーナデットは、キャリアを諦めろと言われたわけではないものの、いろいろな状況が重なって主婦となった。だが、自分の中に潜むクリエイティブなエネルギーを発散できないせいで、人柄に影響が出てしまっている。この葛藤に共感できる女性は多いはず。嫌なキャラクターを、二面的にすることなく、奥にある何かを感じさせつつ演じるケイト・ブランシェットはさすが。母と娘の強い絆はこのストーリーでとても重要だが、新人のエマ・ネルソンから最高のものを引き出したリンクレイターにも感心。一見やりづらい人にも事情があるかもしれないし、思いやりを持とうと考えさせられた。
今作ではティーンの男の子たちがカメの声を務めるのがまず新しい。昔からこのシリーズにはまってきたセス・ローゲンは、いつもそこが気になっていたとか。「フリークス学園」でブレイクし、「スーパーバッド 童貞ウォーズ」で脚本家デビューしたローゲンは永遠にティーンの心を忘れない人で、これも実に彼らしいユーモアのある作品になった。マイケル・ベイの映画ではセクシー女優ミーガン・フォックスが演じたエイプリルも、「一流シェフのファミリーレストラン」で大注目のアヨ・エデビリが声を務める今作ではもっと共感しやすくなっている。子供の落書きのような雰囲気もあるアニメーションスタイルも斬新。
ダークで、オリジナリティあふれる社会派のホラー/スリラー。クライマックスには非常に恐ろしいことが待ち受けているが、映画のはじめの日常を描くシーンは、もしかするとそれ以上に怖い。いじめ、いじめを見て見ぬふりをすること、自尊心、復讐、思いやり。この映画は多くのことを問いかけてくる。ほかの映画では見ないような悪者も、モラルの複雑さを象徴するもの。その狭間で葛藤する主人公サラがどんな決断をするのか、最後まで緊張させられた。そんなサラを体当たりで演じるラウラ・ガランに、観客は強く思い入れしてしまうはず。彼女と、監督兼脚本家カルロタ・ペレダが次に何をやるのか、今から楽しみだ。
「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」は、過去にも映像化されている人気小説。ゆえに結末を知っている観客も多かったが、今回ケネス・ブラナーは、あえてアガサ・クリスティがキャリアの後期に書いたあまり知られていない作品を選ぶという手に出た。しかも大きく変えているので、まっさらな状態で見ることができる。ホラーの要素は新しく、ビジュアルの雰囲気も過去作と違う。ただ、豪華キャストが揃うのもこの手の映画の醍醐味なので、回を重ねるごとにそこが地味になっていくのはやや残念。一方でブラナー演じるポアロは毎回ニュアンスと奥行きを増し、ますますしっくりしてきた。次もあるのかどうか楽しみだ。
政府から映画製作と出国を禁止されながらも極秘で撮影を続けるパナヒ。そんな彼自身が演じる、都会から引っ越してきた映画監督が小さな村で体験することを描くストーリーは、一見シンプルでのんびりした雰囲気ながら、層がある。後半は暗さが増していき、静かに、そしてますます問題提起がされていくのだ。イランに住む普通の人々を取り囲む伝統や迷信の縛り、抑圧、経済的な状況。そして、タイトルが意味すること。映画の前半に出てくる、監督が国境の向こうに越えられるチャンスを得たのにあえてそうしないシーンは、パナヒ自身ととりわけ重なり、興味深い。パナヒの不屈の精神とアーティスト魂を感じさせる優れた作品。