略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
とにかく壮絶な実話。なんと非情で残酷なのかと思っていたら、ストーリーが進むうちにもっと悲惨なことが明かされる。選択の余地がない状況に置かれた主人公。だが、本当にそうだったのか、自分には選択があったのではと、彼は、罪悪感とトラウマの間を行ったり来たりする。同時にまたこれは愛についての映画でもある。彼が地獄を生き延びられたのは愛があったから。そして、まだ毎日を生きていられるのも愛のおかげ。それを感じさせるラストシーンは素晴らしい。主演のベン・フォスターは、肉体面で役のために大変身しただけでなく、非常に複雑で繊細なニュアンスのある演技を見せる。個人的に、彼は今最も興味深い役者のひとりだ。
30年前ならともかく、今の時代、バービーの映画を作るのはすごく難しい。しかし、こう来たかと心底感心させられた。美しいマーゴット・ロビーを主演に起用するのはステレオタイプではと思いきや、それを逆手に取って完璧なルックスのバービーが女の子たちにプレッシャーを与えている事実にも触れるのだから賢い。冒頭から最後のせりふまで、そしてヘレン・ミレンによるナレーションも、とにかくウィットが効いていて笑いっぱなし。プロダクションデザイン、ダンスや歌、すべて最高。女性のエンパワメントをうたうが、男性を虐げるものではない(うわべだけ見たらそう思うかもしれないけれど)、“正しい”フェミニスト映画だ。
ダヴィ・シュー監督は、フランスで養子として育てられた韓国生まれの女友達の話にインスピレーションを得て脚本を書いたとのこと。彼女が実の父に会うため韓国に行く時も付き添った。メロドラマになりがちな設定なのにそこに陥ることなく、複雑に揺れる主人公の気持ちが描かれているのは、それが大きいだろう。予想しなかったラストは、心に重くのしかかる。主演のパク・ジミンはビジュアルアーティストで、演技はこれが初挑戦。にもかかわらず、とりわけクライマックスの感情的なシーンでは圧巻の演技をしてみせる。それ以外の静かな瞬間ひとつひとつにもリアリティを感じさせる、とても繊細な、完成度の高い人間ドラマ。
エレガンス・ブラットン監督はこの映画を「フルメタル・ジャケット」と「ムーンライト」を混ぜたような感じと表現しているが、まさにその通り。軍隊の過酷さをありありと描きつつ(ブラットンの長編監督デビュー作はドキュメンタリーだった)、若い黒人青年の心を間近から見つめていくのだ。自らの経験にもとづいた話だけあり、キャラクターにも、ストーリーにもリアリティがある。ハリウッドエンディングとはほど遠いラストもそう。苦しめられ、差別されても、自分を知っていて曲げず、威厳を失わない主人公フレンチには強く思い入れできる。彼の感情を目の演技でパワフルに表現するジェレミー・ポープは、今後ぜひ注目したい俳優。
9歳の少女のかわいらしいアップが映ったかと思うと、次に彼女は横に座っている重度の自閉症の姉をつねる。そんなふうに最初のシーンから無邪気な子供が持つ意地悪な側面を匂わせるこの映画は、話が進むに従ってどんどん残酷さを増し、やがて手に負えない状況になる(個人的には話が本番に入る前のふたりの子供の行為が一番キツかったが)。夏休み中で人が少ない外の情景、遅い時間でもまだ明るさの残る空、しばしば映される無機質な団地の外観なども、観客を常に不穏な気持ちにさせる。ひと夏の出来事を描く映画としては、かなりユニーク。何よりも、子役たちからここまでの演技を引き出した演出力に感心。