略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
ロマンチックなファンタジー。だが、語られることはとても深い。「神話、お話とは昔の人が知っていたもので、科学とは人間が今の段階で知っていること」という映画のはじめに出てくるせりふから、すでに心をとらえられた。ほかにも、本当に何かを望むとはどういうことか、また、愛とは、などということを問いかけてくる。主役のふたりをティルダ・スウィントンとイドリス・エルバという、ありきたりでない(そしてもちろん演技が抜群に上手い人同士の)組み合わせにしたことで、知的なニュアンスが増した。「マッドマックス」「ベイブ」「ハッピー フィート」、そしてこの映画を作ったジョージ・ミラーの幅の広さに改めて感心。
近年は、優れた時代物のレズビアン恋愛映画がいくつか公開されてきた。だが、それらに見られた繊細さを今作に期待するのはもちろん間違っている。なにせ監督は大のスケベでバイオレンス好きなポール・ヴァーホーヴェンなのだ。彼の映画はしばしば論議を呼びながらも娯楽性に溢れるが、今作もそこに当てはまりそう。公開当時、こてんぱんに叩かれた「ショーガール」はいつしかコメディとしてカルト的に愛されるようになったが、いろいろな意味で抵抗を感じる人もきっといるであろう今作も、リラックスして楽しむのが正解。84歳にしてまだまだ自分のテイストを貫き続けるエネルギーを持つヴァーホーヴェンはあっぱれ。
「1917 命をかけた伝令」は、サム・メンデスが祖父の話にインスピレーションを得て初めて脚本を共同執筆した映画。今作は、精神を患っていた母をモデルに単独で脚本を書いた。まるで違う映画だが、どちらも個人的なところから生まれたのだ。住んだ国は違えど同じ頃に10代を過ごした身としては、登場する具体的な映画にノスタルジアをどっぷり感じた。職場でのセクハラ、人種差別、メンタルヘルスなど、今なおタイムリーなトピックが取り上げられるのも興味深い。そのひどいセクハラ上司をコリン・ファースが名演。ロジャー・ディーキンスによる映像、トレント・レズナーとアッカス・ロスによる音楽がメランコリーなムードを高める。
史上最年少で世界一周単独公開を成功させた16歳の少女の話は、女の子たちに希望と勇気を与えてくれる。全員が女性の監督、脚本家チームがそのメッセージを伝えたかったのは明らか。だが、すべてがまとまりすぎていて、せっかくの実話なのにファンタジーのようになってしまっている。嵐のシーンは迫力あるものの、困難な場面は短いし、主人公は常に髪も肌もきれいで(エンドクレジットに出てくる本物の映像で本人はノーメイクなのに)、そんなに大変なことをやっているように思えないのだ。また、航海に出るまでの家族のシーンなど、せりふが陳腐でまるで昔の民放テレビドラマのよう。無難に楽しめる家族向け映画。
恋愛映画であり、ホラーであり、ロードムービーであり、自分探しの青春もの。それをこんな形でミックスするとは。しかし、人が人を食べるという衝撃を乗り越えてしまったら、実はそれらのジャンルのどれにおいてもそれほどしっかりしたものはないと気づく。とは言え、マーク・ライランスは間違いなくパワフルだ。彼はいつも、何をやらせてもすばらしいが、この映画ではとにかく強烈。彼が出てくるたびに怖くて緊張してしまい、観終わってからもしばらく頭を離れない。野心を感じる作品であるのは確かながら、これを芸術と呼ぶのか悪趣味と呼ぶのかは、観る人によって意見が分かれるだろう。