略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
ミュージシャンの伝記映画は、たとえ優れた作品であっても、どこか似通ってしまうもの。だが、これはまるで違う。派手な出だしでいきなり引き込み、その後も強烈なカラーが来たり、モノクロが差し込まれたりと、刺激的な映像と音楽で引っ張っていく。良い意味でぎっしり詰まっていて、多少欠点があったにしても勢いで飲み込まれてしまう感じだ。こんな映画を作れるのはラーマンしかいない。ここで描かれるのは、世界の大スター、エルヴィスが置かれていた、悲しくて不条理な状況。彼を通じて、人種差別をはじめとするアメリカ社会の問題についても見つめていく。見終わった後もずっと余韻が残り、考えてしまう映画。
30歳にもなったというのに、キャリアでも、恋愛でも、人生においても自分が何をしたいのかわからない主人公。だから、突発的に決して褒められないことをしたり、誰かを傷つけたりしてしまう。タイトルがいうように「最悪」ではないけれど、ふらふらして欠点のあるこの主人公は、非常に人間的。映画は、きちんとした筋をもつというより、あたかも会話をやり取りしているかのような感じで進んでいく。そのリアリティある状況を12章に分け、時にナレーションを入れたりして、あえてお話っぽく語るところも面白い。最高にすばらしいレナーテ・レインスヴェはカンヌ映画祭で女優賞を受賞したが、オスカーにもノミネートされるべきだった。
若いアメリカ人が異国に行ってカルチャーショックを受けて、というあたりは、お決まりのパターン。前半のドタバタも、ありがちな感じ。硬いこと言わずに笑わせるほどのコメディセンスもないので、主人公がヒールを履いて全然歩けないというシーンなども、やや白けてしまう。後半、ドラマチックになってからは良くなるのだが、そこへまた「ジェラートを食べたらすべてがましになる」と言われて「本当だった!!」と感激するシーンが出てきたりして引き戻された。イタリアの美しい風景や美味しそうな食べ物が出てくるし(それもまた典型的なのだが)、あまり考えずに楽しめるもの見たい気分の時には良いかも。
「アフリカの女王」、「ロマンシング・ストーン」、また最近の「ジャングル・クルーズ」を思わせる王道のアドベンチャー映画。だが、主演女優が主演男優より16歳も上ということと、男がヒーローとはほど遠く使い物にならないというところが2022年らしい。そしてこのふたりの男女の相性は、ばっちり。エゴを捨てておバカなシーンを徹底的におバカにやるサンドラ・ブロックとチャニング・テイタムが、終始笑わせてくれる。カメオで登場するブラッド・ピットは、髪型やどんなタトゥーを入れているのかとかなど、キャラクターに自分のアイデアをたっぷり持ち込み、アドリブも多数やったそう。ピットが主演するコメディも見てみたい。
なかなか興味深い、ユニークな設定。ビジュアルも洗練されていて魅力的。SFは現実社会に通じる問題を語るのに適したジャンルで、今作もそれをやっている。でも最後に言葉ではっきりそれを伝える必要はなかったのでは。そこはもっと観客を信頼してほしかった。ポップな音楽を入れて独特のトーンを狙ったのも、やや疑問。シリアスなテーマを持つのだし、普通にダークなスリラーにしても良かったと思う。カリスマがあり、チャーミングで、だからこそ怖い悪役をクリス・ヘムズワースが名演。だが、もっと演技の見せ場があるのはマイルズ・テラー。テラーとコシンスキー監督は、ハリウッドの新たな名コンビになったと言って間違いない。