略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
ホラーというジャンルは社会のあらゆる問題を探索する上で効果的。女優から監督に転身したテレザ・ヌヴォトヴァの野心が感じられる今作でも、たとえば映画のはじめのほうでは女性にとっての妊娠、出産、母性について触れられるし、昔ながらの男性社会における女性の立場、暴力などが描かれていく。それらが“本題”である迷信、魔女狩り、謎解きミステリーに絡んでくるのだが、あちこち飛ぶ感じで、いまひとつまとまりがない。ビジュアルとサウンドで不穏なムードは盛り上げるが、つい思い出してしまう「ザ・ウィッチ」や「ミッドサマー」のようには引き込まれない。ナタリア・ジェルマーニ、エヴァ・モーレスの演技はとても良い。
やはり13歳の少女についての「私ときどきレッサーパンダ」や、やや下の年齢の少年が主人公の「あの夏のルカ」も素晴らしかったが、心理学者にしっかりリサーチをして挑んだというこの映画もまた、思春期を迎えた少女の心理を見事につかんでいる。新たな感情のキャラクターはどれもユーモラスで魅力的。トラブルメーカーである「シンパイ」を完全な悪者にしていないところも良い。現実として、私たちは不安という感情ともうまくつきあっていかなくてはならないのだから。歳を取るにつれて「ヨロコビ」の出番が減っていくということにも気づかされ、自分で積極的に見つけていくべきなのだと思った。そんなふうに大人も共感できる傑作。
原作があるので当然と言えばそうだが、1996年のオリジナルと共通する要素は多数。過去の竜巻の恐怖で始まり、クライマックスでもさらにたっぷりあるのも同じ。主役は間違いなく竜巻。そこが見どころであり、それらのシーンの迫力は十分。キャラクターはやや薄いが、今ノリに乗っているグレン・パウエルは相変わらずカリスマがあるし、デイジー・エドガー=ジョーンズも魅力的だ。竜巻が地域に与える被害をもっと描いたのは、現代らしい視点。その一方、気候変動のせいで自然災害が増えていることには一切触れられない。お説教は避け、すべての人たちに見てもらえるポップコーン映画に徹するという使命の表れか。
邦題も良いが、「Hopeless」という英題はまさにぴったり。主人公は常に絶望的な状況にいて、何をしても悪いほうに転がり、暴力、腐敗、恐怖から抜け出せない。負の連鎖、格差社会を語るが(みんなが同じレベルの生活をしているオランダに行きたいと夢を語ると、組織の兄貴分に『そんなところはない』と言われる)、その先がないので、息が詰まりそう。バイオレンスも容赦なく、思わずスクリーンから目を背けたことも何度かあった。演技はすばらしい。とりわけ主演にホン・サビンを選んだのは大正解。純粋さを感じさせる俳優で、観客はより彼に同情してしまうのだ。この野心的な作品で監督デビューしたキム・チャンフンの次回作に期待。
最初から最後までほぼノンストップで笑わせてもらった。出演者の私生活、業界事情、マーベルやディズニーをネタにした自虐的ジョークも多く、それらを一緒に笑えるスタジオや出演者の度量の大きさに拍手。そしてカメオが凄い。意外な人ばかりで、誰かが出てくるたびにあっと声を上げてしまった。ジョークやカメオが全部ピンと来なかったにしても、冒頭のデッドプールのダンスやアクションをはじめ、見るからに可笑しいシーンがたっぷりなので楽しめるはず。ライアン・レイノルズのせりふ回しのタイミングは今回も絶妙なら、新たに参加したマシュー・マクファディンもすばらしい。楽しくエネルギーに満ちた夏のエンタメ映画。