略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
ホラー作家シャーリイ・ジャクスンという人物に、典型的な伝記映画としてではなく、まるで彼女が書く小説のようにアプローチするところがユニーク。この映画のシャーリイは、天才ではあるが気難しく、予測不可能で、登場するたびにシーンを緊張させる。若い女性ローズは一見まるで対照的ながら、その時代の女性である彼女らは実はそう違わないということがわかっていく。優れた心理スリラーの奥には、フェミニズムのニュアンスがあるのだ。そこを伝える上で、男優たちはすばらしい仕事をしている。マイケル・スターンバーグは見るからにすごいし、ローガン・ラーマンのさりげなさも良い。もちろんふたりの女優陣も最高。
クライマックスのレースのシーンは迫力があり、ショッキング。事実、ミッレミリアはこのせいで中止になったのだ。だが、基本的には静かに展開する今作を引っ張るのは、ラウラ役のペネロペ・クルス。悲しみと怒りを抱え、躊躇なくそれを夫にぶつけてくるラウラは、激しく、怖くもあるが、同情できる。逆に主人公であるフェラーリは心を開かないキャラクターで、観る者は応援したいのかどうかよくわからない。その複雑な人物像にアダム・ドライヴァーも惹かれたのだろうが、映画自体が心を閉ざしてしまったような気も。演技のほかにレースにも情熱を注いできたパトリック・デンプシーがレーサー役でちらりと出演しているのはナイス。
最近の「アイデア・オブ・ユー~」は40代のシングルマザー(アン・ハサウェイ)と年下ミュージシャンの恋を描いたが、今作は夫を失った女性と若い映画スターの恋物語。エフロン演じる世間知らずでわがままな映画スターの言動や、ハリウッドをネタにしたジョークは笑えるので、楽しさという意味ではこちらのほうが上。ただし、中年女性が若い男性と交際することのハードルについては「アイデア~」のほうが語っていた。だが、先が簡単に読め、ストーリーに説得力がないのはどちらにも共通。若くホットな男性に愛される役というのはハサウェイやキッドマンにとっては魅力だったのかもしれないが、結果的に才能の無駄遣いになって残念。
リリー・グラッドストーンは「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」でもオスカー候補入りしたが、今作はまさに彼女の映画だ。褒められるような生き方はしていないかもしれないが、家族とコミュニティに愛を持っている主人公ジャクス。その大事なものを奪われようとし、抵抗するジャクスに、観る者は強く思い入れをし、目が離せない。この映画に最もふさわしいと思えるエンディングは、心に残り、観終わってからもその先を想像させる。ネイティブ・アメリカンの日常をリアルに描く中では、彼らにとっての白人の存在についても触れられていく。美しく、静かだが強い感情に満ちた、見逃してはならない傑作。
最もホットな女性として人気を集めた若い頃からなぜか良い映画に恵まれず、近年は起業家として成功してきたジェシカ・アルバ。久々の映画主演は、華やかなカムバックとはならなかった。リベンジもので、強い相手をやっつけられる人なのだと説得力を持たせるため、主人公を元軍人や元殺し屋にするのはお決まりのパターン。とは言え、ベイジル・イヴァニクは「ジョン・ウィック」のプロデューサーでもあるのだし、この映画のアクションもあれくらい斬新だったなら、ストーリーの弱さは多少なりとも克服できたかも。インドネシア出身女性監督の英語映画デビューとあり、応援したかっただけに、彼女の個性が発揮されなかったことが残念。