略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
最もホットな女性として人気を集めた若い頃からなぜか良い映画に恵まれず、近年は起業家として成功してきたジェシカ・アルバ。久々の映画主演は、華やかなカムバックとはならなかった。リベンジもので、強い相手をやっつけられる人なのだと説得力を持たせるため、主人公を元軍人や元殺し屋にするのはお決まりのパターン。とは言え、ベイジル・イヴァニクは「ジョン・ウィック」のプロデューサーでもあるのだし、この映画のアクションもあれくらい斬新だったなら、ストーリーの弱さは多少なりとも克服できたかも。インドネシア出身女性監督の英語映画デビューとあり、応援したかっただけに、彼女の個性が発揮されなかったことが残念。
2022年末、非常に稀なSPSという病気の診断を受けたことを公表したセリーヌ・ディオンが、そこに至るまでの過程と今に焦点を当てるこの映画は、セレブのドキュメンタリーが陥りがちな、ファンサービスのそれとはほど遠い。事実、監督のアイリーン・テイラーはこの手のテーマを手がけたことはないし、ディオンのファンでもなかったという。自分を導いてくれる存在だった歌、声を奪われた心境を赤裸々に、涙ながらに語るディオンの姿は見ていて心を打たれる。現在進行形のこの話にまだハッピーエンドはないが、人並外れた才能を持つ彼女がひとりの人間として闘う姿に強く共感し、寄り添わずにはいられない。
心から感動させる、実際に起きた美しい話。とりわけ最後のシーンは泣けるので、ハンカチかティッシュを用意しておくことをおすすめ。「イギリスのシンドラー」とも呼ばれるニコラス・ウィントンは、ナチの侵攻で命が脅かされているチェコスロバキアの子供たちを難民としてイギリスに受け入れるために奔走した。映画は、そんな若い頃と年老いてからを行き来しながら展開。前半はアンソニー・ホプキンスの出番が少ないが、彼のさすがの演技の見せどころはちゃんとあるのでご安心を。暗いニュースが多い時代だけに、見ず知らずの他人のために頑張る人たちの姿を見て、希望を得るとともに、私たちは何をするべきなのかと考えさせられる。
ドイツが誇る巨匠ヴィム・ヴェンダースが、やはりドイツ出身の偉大な芸術家アンゼルム・キーファーに敬意を捧げるこの映画は、典型的なドキュメンタリーの形式にはまらない、詩的で、瞑想的で、独自の美学を持つ作品。2年かけて撮影したヴェンダースは、キーファーの優れた作品の数々を見せながら、自身と同じ1945年に生まれたキーファーが暗い歴史に背を向けようとする人々に対して持つ疑問や、彼の哲学を紹介していく。子供の頃のキーファーをヴェンダースの甥、20代の頃の彼をキーファーの息子に演じさせたフィクションのシーンも、浮くことなく自然。ふたりのアーティストの魂に触れたような気分になれる。
「サイドウェイ」を10回以上観た大ファンとしては、アレクサンダー・ペインとポール・ジアマッティが19年ぶりに組むというだけで大興奮。「サイドウェイ」とはまるで違うストーリーながら(ジアマッティ演じる主人公が先生というところだけは共通)、今作も人間味がたっぷり。ペインは、この映画を1970年が舞台の“時代もの”ではなく、自分たちが1970年に生きていると想像し、現代を舞台にした低予算の映画を作ろうとした。それは見事に成功していて、あの時代のタイムカプセルを見ているような気分になる。大規模なオーディションでアンガス役を獲得した、当時現役高校生だったドミニク・セッサにも感心。今後が楽しみ。