略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
なぜ主人公ケンの父はウルトラマンでケンも任務を引き継ぐのかなど、背景説明はあえてなし。多くの人はその昔、番組を途中から見たので、監督はその体験を再現したかったとか。それはそれで楽しいし、続編ができればそこで触れるのかも。ビジュアルは美しく、アニメーションスタイルは斬新。とりわけ野球のシーンの描写は、試合にしろ、テレビ中継の様子にしろ、すごすぎて感動した。日本の風景もディテールまでしっかりこだわっている。オリジナルの声優が日系人なのでキャラクターの動きはアメリカ人っぽいが(CGアニメでは先に声を録音し、その時の動画を参考に絵を作るので)、その表現豊かな動きもエネルギーを与えている。
社会の底辺で苦しむ若者が正しい人に出会ったおかげで立ち直っていく感動もののように始まるが、そこから予想しなかった、ずっと重い方向に進んでいく。世の中はそう単純ではなく(もちろんそういった感動作にも良い物は多いが)、負の連鎖を断ち切るのは困難。また、ひとりの人間には違う側面があり、正義が生み出すものは必ずしもすべて薔薇色ではないかもしれない。たった4年前のことでありながらもう忘れられつつある、コロナの始まりの尋常でない時期をとらえたところにも意義を見る。国境を越えて共感を呼べる作品では。心の中が変化していく様子を表情で見せる河合優実の演技もすばらしい。これからもっと見たい女優。
実質3分強だった同名の短編の監督コンビが長編映画化の権利をジェームズ・ワンに売り、コンビのひとりブライス・マクガイアが監督。だが、90分に伸びるとなぜ怖い現象が起きるのか説明が必要になり、そこに新鮮さがないため、呪われた家をプールに変えただけのような、ありきたりなホラーになってしまった。ラストも、作り手は意外さを狙ったのだったのだろうが、いくらこのジャンルとはいえそこまでの話に信ぴょう性がなさすぎて、唐突。ワイアット・ラッセルのキャラクターが元MLB選手という設定なのであえて例えるなら、ジェイソン・ブラムとワンのような最強打者でも毎回ヒットを打つのは難しいのだという事実を再認識した。
今作のテニスは「君の名前で僕を呼んで」の桃に当たる。そんなセクシーな映画だが(ただしセックス自体はない)、究極のブロマンスでもある。三角関係の中心にいるタシ(ゼンデイヤ)が、典型的な恋愛映画の女性キャラクターでも、ファムファタールでもなく、自己中心的で好感度いまいちなのも面白い。時間が行ったり来たりする展開のしかたも効果的。そういった独自な要素がたっぷりあり、役者たちも頑張っているのだが、正直、どこか深みに欠ける。ただ、グァダニーノの映画の中では最も明るく、楽しさと遊び心がある作品なのはたしか。高校生役が多かったゼンデイヤは、今作で実年齢にふさわしい役をばっちりとこなしている。
「怒りのデス・ロード」の世界観はしっかり貫かれ、今回もアクションはすばらしい。しかし、3日間を舞台にした「デス・ロード」が、息をもつかせぬペースで圧巻しまくり、終わった後、会場中が「なんだかすごいものを見た」と(良い意味で)呆然となったのに比べ、ストーリーが長期間に及ぶ今作には、あの強烈な凝縮感はない。なにせアニャ・テイラー=ジョイが出てくるまでにも1時間あるのだ。ジョージ・ミラー独自の世界にまた戻れるのは嬉しいが、当然ながら最初に見た時のインパクトには欠ける。とは言え、「マッド・マックス」サーガの新たなチャプターにはふさわしい。できるだけ大きなスクリーンで見ることをお勧め。