略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
AIは、大きな懸念。今、これをテーマにするなら、たとえポップコーン映画であっても、何かメッセージ、問いかけがあるべき。今作は、AIは怖い、悪いというスタンスで始まるのに、その後あちこちに行って、結局この2時間自分は何を見せられたのだろうかと思う。日本のアニメに影響を受けていると思われる人間が乗る大型ロボットも出てくるし、アクションはたっぷり。だが、AIがテロリストになって人間を虐殺したという最初の設定も含め、それらエンタメ的要素も既視感だらけ。すべてのシーンに出るジェニファー・ロペスはともかく、今年のオスカーに候補入りしたスターリング・K・ブラウンがなぜこの無駄遣い的な役に惹かれたのか謎。
「呪われた家」「悪夢」「出産」「孤独」というホラーの定番要素をミックスしつつ、女性監督ならではの目線で語る作品。主人公モナは25歳の女性。交際歴の長い恋人ロビーはたくさん子供を欲しいと気楽に言い、格安物件も見つけてきたが、モナはその責任の重さに迷いを感じている。ロビーはナイスだけれども、妊娠、出産についての男女の考え方には違いがあるのだ。大胆でショッキングな(ただし、優れた、とは言わない)ラストにも、そこに通じるものが見てとれる。しかし、ストーリーには納得がいかない部分も。悪夢の中で起きる恐ろしいことも、話があまり先に進まないまま何度も繰り返されるせいで、怖さが薄れていく感じ。
前三部作の大ファンとして、シーザーのレガシーに大きな敬意を払いつつ新しいアプローチをしたことを歓迎。シーザーの話は悲しく、暗かったが(そこが良いのだが)、今作は若者の成長物語。ロードムービー、冒険映画の雰囲気もある。その過程で変化していく主人公を演じるオーウェン・ティーグは見事。ポストプロダクションで猿のCGを施されてはいても、目など細かい表情は明らかに優れた俳優のもの。アクションのこなし方も最高。エンタメでありながら現代社会につながる何かがあるのもこのシリーズの魅力。古い教えを都合良く捻じ曲げて大衆を操る悪役の様子も、まさにそれ。次でもっと深掘りされそうな要素を感じるので、続編が楽しみ。
壁の向こうはアウシュビッツ強制収容所。映画はそこで起きていることを見せることはせず、音で伝える。その音は1日中聞こえてくるのに、隣に住むナチ将校の妻はまるで気にせず、「またイタリアを旅行したい」と寝室で楽しそうに夫に話し、自慢の庭園で赤ちゃんに花の匂いを嗅がせる。人はいかに都合の悪いことから自分を切り離せるものなのか。照明を立てず、固定カメラで淡々と一家をとらえる独特な撮影のやり方は、彼らをひたすら冷静に、客観的に見つめさせる。重要なキャラクターである音響(この部門でもオスカーを受賞)を邪魔しないため 、音楽は映画の最初と最後のみ。その強烈な音楽も、今見たものを胸に押し付けてくる。大傑作。
ビートルズに関するドキュメンタリーの中でも、これはユニーク。ジョン・レノンと一時期深い仲だった中国系の個人秘書メイ・パンの視点から、この恋の始まり、彼女が見たレノンとヨーコ・オノ、レノンとポール・マッカートニー、レノンと長男ジュリアン、またビートルズが正式に解散した時のことなどが、多数の写真、アーカイブ映像、アニメーションとともに語られていくのだ。そんな中では、家の中でレノンが見せたダークな側面にも触れられる。パンが涙ながらに語る真剣な恋の終わりは、とても切ない。一方でそこにはまだ腑に落ちない部分もあり、レノンから話を聞けない以上、本当のことがわかる日は来ないのだとも感じる。