略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
普段あまり語られない事柄に焦点を当てる、強烈な映画。9歳の少女の暴力、暴言がすごくて、「ここでまたキレるのではないか」と、ずっとハラハラしていた。そんな彼女を演じたのが、この映画の翌年に「この茫漠たる荒野で」で正反対の少女になりきったヘレナ・ツェンゲルだと後で気づいてびっくり。あの若さにしてこれだけの演技の幅を見せた彼女の今後に大きく期待。ノラ・フィングシャイト監督は、5年をかけて里親や施設で実際に働いたり、スタッフの話を聞いたりしてリサーチをしたとのこと。大人たちのキャラクターが、複雑さを持たせながらも共感できるように描かれているのも納得。あっさり問題解決させないラストも良い。
今年のオスカー長編ドキュメンタリー部門の候補作は意義あるテーマを持つ傑作揃いだったが、受賞したのはこれ。そこには、勇気あるレポーターが危険な場所で足を運び、伝えなければいけないことを世界に伝えたことへの評価が大きく関係していると思われる。この映画の監督で、APのレポーターであるミスティスラフ・チェルノフがとらえた現地の一般市民の映像は、実に生々しく、心が痛むものばかり。これまで当たり前に住んでいた自分の家が突然破壊されるのは、どんなことなのか?現地の映像は稀だったため、ニュースで使われたものも多数混じっているが、この映画であらためて全体をしっかりと見られるのは貴重なこと。みんなが見るべき映画。
主人公が勤めるカフェも住むアパートもかわいいし(引っ越してきたばかりなのにあそこまでインテリアが整っているのかとツッコミたくはなるが)、音楽もたっぷりで、目と耳に楽しい。だが、最初は衝突していたのに次第に惹かれ合うようになるとか、その後誤解が起きて拗れるとか、話は完全にお決まりパターン。ラストも予想通り。主演のアイタナは歌手で、これが映画デビュー作。当然のことながら、得意の歌声を披露する場はしっかり用意されている。最近Netflixが量産しているロマコメにはごくたまに光るものもあるが、これはその他大勢のひとつ。ただし猫がかわいかったので(それもよくある手ながら)星ひとつおまけ。
家の中に焦点を当てる今作には、バズ・ラーマンの「エルヴィス」に出てこなかったことがたっぷり。エルヴィスの決して褒められない行動も出てくるので、娘リサ・マリーはこの企画に大反対したそうだが、原作はプリシラが書いた回顧録なのだ。若い女性がアイデンティティを見つけていくというテーマが得意なソフィア・コッポラは、この話を語るのに最適な監督。服や髪型まで言われる通りだったプリシラが、彼が好まないとわかっている服を着るようになったり、ついに言いたいことを吐き出す瞬間があったりなど、心の変化がしっかり描かれる。14歳から20代後半までを演じたケイリー・スピーニー、その手助けをした衣装、ヘアメイクにも拍手。
金と権力を持つお友達に未成年の女性たちを斡旋した罪で逮捕され、獄中で自殺(ということになっている)したジェフリー・エプスタインについて知識と関心があった人はもちろん、なかった人にもおすすめ。実際のインタビューをほぼ再現する最後の数十分は、とりわけ目が離せない。あんなボロボロのインタビューをしながら、「うまくいった」と感じたアンドリュー王子は、なんと情けなく、ズレているのかと苦笑してしまう。相手が国の要人であっても、被害者女性のために、正義のために、鋭い質問をして真実を暴こうとするプロデューサーとインタビュアーの姿に、ジャーナリズム、メディアはこうあるべきなのだとあらためて感じる。