略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
信じられない本当の話。近年時々言われる「有害な男らしさ」に警鐘を鳴らす話でもある。映画には出てこないが、実はもうひとり弟がいたというのだから驚き。悲劇が次々に起き、心が沈んでいくが、最後にはそれらのことを乗り越えた主人公の強さに感動し、不思議に希望が湧く。肉体改造と特訓でレスラーになりきった主要キャストには大拍手。ザック・エフロンが試合をするシーンも、ノーカットで撮影したとのこと。感情的な演技の面においても、エフロンのキャリアで最高と言っていい。タイプはまるで違うが、ダーキンの「不都合な理想の夫婦」も夫の野望のために家族が転げ落ちていく話で、今作となんとなくつながるものがある。
セリーヌ・ソン監督自身の体験にもとづく究極にパーソナルな物語。だが、奇妙なことに、誰もが共感できるのだ。筆者の場合は、生まれ育った国と今生きる国、どちらも自分のアイデンティティで、どちらかが欠ければ自分ではないのだというところが、とりわけぐっときた。好き同士なのに人生のタイミングが合わなくて結ばれなかったという体験をした人も、きっと自分に重ねて泣けるはず。ソン監督が最初から決めていたというエンディングも、リアリティがあり、感動させる。この映画が世界でスマッシュヒットし、オスカーに候補入りするほど評価されたという事実にも、どこにいても人は似たような経験をするのだなと、ちょっとほんわか。
お決まりのパターンにはまらない、ユニークなロマンチックコメディ。ストーリーやキャラクターにやや極端なところがあるのも、オペラがメタファーになっていると思えば納得。登場するのはふた組の全然違う中年カップルと、彼らのティーンエイジャーの子供たち。どちらも妻の連れ子であるという微妙なディテールも、この物語をモダンにする。どんどんごちゃごちゃになっていく状況を、豪華キャストで、明るいトーンを保ちつつ描くのは、ちょっとウディ・アレンを思い出させたりも。映画に出てくるオペラのプロダクションも見事。エンドクレジットでかかるブルース・スプリングスティーンによるテーマソングも良い。
多くの実話にインスピレーションを得て生まれた感動作。ホームレスの問題が世界各地でますます論議される中、それらの人々に思いやりを持って寄り添う。アンダードッグのスポーツ映画はほかにもあるが、お決まりのパターンにはまってしまうのをうまく避けた。今作にたっぷりハートを与えるのは、いつものことながらすばらしいビル・ナイ。「エンパイア・オブ・ライト」でブレイクしたマイケル・ウォードも光る。過去にホームレス・ワールドカップに出場した選手が小さな役で登場するのもナイス。同じ題材を扱う2008年のドキュメンタリー映画でナレーションと製作総指揮を務めたコリン・ファレルもプロデューサーに名を連ねている。
まずは、キャスティングが大成功。みんなが魅力的であるだけでなく、お互いとの相性もばっちり。また、主演のふたりはもちろん、「この人、いる意味あるの?」と思っていた脇役にも実はちゃんと見せ場があったりする。すべての役者が笑いを提供するが、とりわけカン・ハヌルはすばらしい。恐れることなくおバカな領域に全力で突入するのだ。映画自体にもユーモアはたっぷり。“記憶喪失”という古いメロドラマ的なプロットももちろん意図的だし、クライマックスもあえて恋愛映画の定番パターンを用意しつつ、わかってやっているんだよと見せる。韓国で大ヒットしたというのも納得の、楽しめるロマンチックコメディ。