タンゴ・リブレ 君を想う (2012):映画短評
タンゴ・リブレ 君を想う (2012)平凡で地味で華のない中年男女の激しい愛はコッテリ濃厚
タンゴというのは、もともとアルゼンチンの男たちが酒場の憂さ晴らしに踊ったのが始まりだったそうだ。いわば抑圧された魂の解放、自由への渇望などが込められていたのだろう。本作はそんな“情熱の舞”タンゴをキーワードに、ままならない人生からの逃避を企てる人々を描く。
主人公はうだつの上がらない刑務所の看守J.C.。唯一の楽しみは週1回のタンゴ教室なのだが、そこで出会った女性アリスに恋をしてしまう。だが、彼女には家庭があるばかりか、夫の親友の愛人でもあった。しかも、その2人共がJ.C.の働く刑務所の囚人。その上、この奇妙な三角関係は全員が合意済みというのだからJ.C.でなくとも面食らう。とどのつまり、愛にはルールも束縛もないのだ。で、欲望や感情をむき出しにぶつかり合いながらも強固な絆で結ばれた彼らを見ているうちに、内向きだったJ.C.の人生観が変わっていくのである。
少々お膳立てが出来過ぎな感は否めないし、タイトルにタンゴを謳っている割にダンスシーンは僅かというのも肩透かしだが、平凡で地味で華のない中年男女による激しい愛のドラマはコッテリ濃厚。そのリアルな生々しさが妙に後を引く。