わたしはロランス (2012):映画短評
わたしはロランス (2012)特殊な愛の形ではなく、誰もが知る愛の物語だった
女性になることを決意した男性と、恋人としてありのままの彼を受け入れようとする女性の物語。正直、同性愛者や同性婚については考える機会も多い昨今だが、トランスセクシュアルとなると極端に知識不足。女性であると自覚する男性の恋愛対象が女性ということもあるのか等々、ジェンダーについて考えが巡るも気がつけばそんな区別は頭から消えていた。なぜなら、これは愛の喜びと苦悩、そして残酷さを力強く描き切った普遍性のあるラブ・ストーリーなのだから。
女装が驚くほどエレガントで美しいメルヴィル・プポー(衝撃的!)の透明感と繊細さに対して、スザンヌ・クレマンは火のように激しくエモーショナルだ。2人の役柄と個性そのままに、その時々で各人の感情を言葉ではなく訴えかけてくるイマジネーション豊かな映像美が圧巻で、唐突に挿入されているように見えて実に緻密に計算されている。演技、音楽、映像と全ての要素のバランスが絶妙で、168分も長さを感じさせない。
23歳で本作を発表した、カナダ出身のグザヴィエ・ドランの才能に圧倒された一作(日本では監督デビュー作『マイ・マザー』が11月9日に公開)。必ず覚えておきたい名前だ。