父の秘密 (2012):映画短評
父の秘密 (2012)圧倒的に生々しい
新装版『キャリー』はイジメ描写をSNS仕様にアップデートしたのは律儀だけど、筆者には「スター女優のキャリーごっこ」にしか見えなかった。だが同じ学園のイジメを扱いつつ、段違いの生々しさを備えているのがメキシコ映画『父の秘密』だ。ヒロインは転校先の学校で、最初優しい歓迎を受けるのだが、男子生徒とのハメ撮り動画がインターネットで出回り生き地獄に突き落とされる。この十代の性欲の凶暴性も、陰湿な手のひら返しもめっちゃリアル。ヒロイン役は新進女優テッサ・イアだが、クラスメイトを演じるのは大半がイアの友人の素人だという。
後半は、それまで妻を亡くした喪失感で抜け殻になってた父の怒りが爆発。『ハードコアの夜』や『サマリア』を想い出す人も多いだろうが、叙述自体は淡々としたドキュメンタルなタッチを貫く。だが空気は徐々に殺伐さを湛え、やがて至る海上での凄みのある長回し撮影は圧巻!
作風は「ダルデンヌ兄弟+ミヒャエル・ハネケ」。いかにもカンヌ受けしそうなタイプだけど(「ある視点」部門グランプリ)、優等生枠に納まらぬ殺傷力アリ。監督は1979年生のマイケル・フランコ。熱い国メキシコからクールな才能の登場だ。