森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。2月7日より、吉田大八監督(『敵』)の回を配信中。ほか、片山慎三監督(『雨の中の慾情』)、ウェストン・ラズーリ監督(『リトル・ワンダーズ』)、想田和弘監督(『五香宮の猫』)、空音央監督(『HAPPYEND』)、奥山大史監督(『ぼくのお日さま』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao19710822.seesaa.net

森 直人 さんの映画短評

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  • BETTER MAN/ベター・マン
    国民的ポップスターの少年漫画的な仮面の告白
    ★★★★

    かねてから本人が語っていた比喩的な自画像としての“猿“をそのまま可視化するという話法の選択がヤバすぎる。ロビー・ウィリアムスの激動と内省、ショービジネスの光と影を見つめるM・グレイシー監督は『オール・ザット・ジャズ』へのオマージュ等も込めつつ、奇矯さの中から王道の迫力が突き上がる豪快なポップオペラに仕立てた。

    テイク・ザットでの活動、リアム・ギャラガーとの因縁など、90年代中心の英国音楽絵巻としても楽しい。全体としてはフランク・シナトラ(“神々”の筆頭)で繋がる父親との関係性に焦点が絞られ、弩級のエモいクライマックスを迎える。Netflixのドキュメンタリーシリーズ(23年)も併せて観たい。

  • ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース
    ヒップホップ=レゴブロック思考のパーティー
    ★★★★

    『ベター・マン』の“猿”にも驚いたが、こちらも見事。音楽伝記映画の傑作にしてレゴムービーの快作だ。ファレルの自分語りを軸に濃密な情報量が詰め込まれ、『8 Mile』型というよりアプローチはドキュメンタリー(監督は『バックコーラスの歌姫たち』等のM・ネヴィル)。豪華関係者(NIGO含む)の証言を交えて、あらゆる枠組みを越境・接続し、“ハイブリッド思考”を独自展開してきた傑物の半生が語られる。

    何より素晴らしいのは“組み合わせによる創造”というメッセージがレゴの理念と合致していること。設計された世界の中で自由と肯定性を獲得する実践から珠玉のアンセム群が爆誕していく。ちらっとだけミニオンも登場。

  • ドマーニ! 愛のことづて
    今日までそして明日から
    ★★★★

    モノクロームで描かれる1946年ローマの庶民の日常。しかし呑気な郷愁の目線ではなく、DV三昧の壮絶な男性支配に甘んじる女性の姿が映し出される。国民的スターにしてこれが初監督となる主演のP・コルテッレージ(才人!)は、コミカルな批評性を持って伊映画の伝統を受け継ぎつつ新しい地平に塗り替えてみせた。

    基本はデ・シーカ史観的。『靴みがき』から『ウンベルトD』のネオレアリズモと『昨日・今日・明日』等の人情喜劇路線を融合させた様な作風ながら、実は音楽の使用法など全てがモダンなタッチ。敗戦後の光景は同時期の日本と共通するが、ラストに据えられた“ある重要な一日”も日本と同じく1946年に訪れたのだった。

  • あの歌を憶えている
    鬼才監督のソフトタッチの味わい
    ★★★★

    強烈な作風で鳴らしてきたミシェル・フランコ監督が今回は“優しさ”に傾いた。舞台はNY。ジェシカ・チャステイン&ピーター・サースガードという演技巧者をW主演に得て、喪失感や暴力の傷跡など主題は『父の秘密』や『或る終焉』等と共通しつつも、柔らかな癒しを希求するヒューマンドラマに仕上げた。

    メインモチーフはまさに原題の“MEMORY”。記憶にまつわる異なる問題を抱える二人がある種溶け合うように互いを補完していく。彼らを繋ぐ要となるのがプロコル・ハルムの「青い影」、そして娘アナの存在。これは監督の成熟か、別アプローチか。今年のベルリン映画祭に出品された新作『Dreams』がどうなっているか楽しみだ。

  • ドライブ・イン・マンハッタン
    教会の告解室のように自己開示が始まるイエローキャブの車内
    ★★★★

    『ナイト・オン・ザ・プラネット』から伸びてきた道と『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』の交差点といった趣か。“動く密室”であり運転手と乗客の一期一会の場所である走行中のタクシーで現在進行形の人間ドラマが展開する。元々舞台劇として構想されたが、NYクイーンズのケネディ空港からマンハッタンのミッドタウンまで夜景の移動が伴い、都市空間のロードムービーとしての臨場感を手に入れた。

    監督はクリスティ・ホール。彼女が脚本&製作を手掛けた『ふたりで終わらせる』等から連なる男性性や性的搾取をめぐる主題が、二人芝居=W主演のダコタ・ジョンソン(兼製作)とショーン・ペンの過去作品イメージを確かに更新させる。

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