64-ロクヨン-前編 (2015):映画短評
64-ロクヨン-前編 (2015)ライター2人の平均評価: 4
しっかり『後篇』まで引っ張る力技。
ある殺人事件に直面した人々のその後の人生を描いた人間ドラマだけに、『ヘヴンズ ストーリー』で手腕を振るった瀬々敬久監督の起用は正解。できるだけエピソードを削らず、原作を忠実に描くだけでなく、豪華キャストそれぞれに見せ場を用意したことで、計4時間の尺になったのも頷ける。女性記者役の菜葉菜ら、『ヘヴンズ~』組の健闘も嬉しいなか、窪田正孝の変貌っぷりは目を見張るものがアリ。広報官として過去と戦う三上役の佐藤浩市の熱演と演出のブレが目立ち、若干取り残され感もあるが、とにかく力技でラストまで引っ張ってくれる。この『前篇』だけで、『ストレイヤーズ・クロニクル』の汚名は返上した。
佐藤浩市が「日本映画」に対決を挑む演技的ダイナミズムの牽引力
極めて日本的だ。天皇崩御報道にかき消された未解決事件は、忘却しがちな日本人に内省を訴えかけてくる。そのうえ前後編に分けねばならぬという事情もまた、日本的。NHK版以上に劇場版は家族の情念に視座を置くが、最大の見せ場はやはり組織vs個人。上層部とメディアの板挟みとなる県警広報官=佐藤浩市。共演陣とぶつかり合う佐藤の姿は、日本映画のありようや観客のリテラシーの現状に対決を挑むかのようだ。瀬々敬久の演出がそれを受けとめ切れず、佐藤の感情がドラマから浮き上がりがちな瞬間もある。しかし記者クラブを前にした9分間ぶっ通し対峙場面は、活字では不可能な映画ならではのダイナミズムとして後編へと見事に牽引する。