ローマに消えた男 (2013):映画短評
ローマに消えた男 (2013)ライター2人の平均評価: 5
政治権力の抱える矛盾を軽妙洒脱に風刺した異色作
選挙を目前に控えたイタリア最大野党の党首が書置きを残して失踪。慌てた秘書は苦肉の策として精神病患者である双子の兄を代役に立てるのだが、皮肉にもこの替え玉が大衆の心を掴んで党の支持率を飛躍させてしまう。
汚職や不正の常態化した政界に疲れきって現実逃避へ走る弟と、狂人ならではの天衣無縫で政治の腐敗をバサバサと切っていく兄。対照的な双子は物事の二面性の象徴であり、そこから浮かび上がるのは理想と現実の板挟みを宿命づけられた政治権力の矛盾だ。
世界規模で政治不信が広まる現代だからこその重要なテーマを、軽妙かつ洒脱なユーモアと風刺で描いてみせる手腕は見事。様々な解釈の余地を残すラストにも脱帽だ。
生きることに疲れた心身とシンクロし、癒しと希望を与える名画
イタリア政界をモチーフにしながらも、政治を描くわけではない。これは、社会と真剣に向き合った挙げ句、疲れ切った男のドラマだ。突如失踪した政治家の代わりに、双子の兄を替え玉にする奇策。消えた男が自分を取り戻すうちに、現れた男は予期せぬ人気を勝ち得ていく。入れ替わった立場から観る光景は瑞々しく、人は皆、本来自由であり、自分らしく振る舞うことの大切さを教えてくれる。喩えるなら、ケヴィン・クライン『デーヴ』×ピーター・セラーズ『チャンス』の要素が入り混じるとでも言おうか。もの悲しさと微かな笑いが交錯し、ここには、世の中や人生を見つめ直す、穏やかな時間が流れている。