若おかみは小学生! (2018):映画短評
若おかみは小学生! (2018)ライター3人の平均評価: 4.3
”脚本:吉田玲子”の品質保証付き
脚本は『聲の形』、『夜明け告げるルーのうた』をはじめ秀作アニメの影にはこの方有りの吉田玲子。やっぱり上手いのだ。1本の太いテーマに則って長い原作を巧みに咀嚼しつつ、映画的な時間軸の中でクライマックスに持っていくまでの構成が。映画版は、TV版ではあまり触れられなかった両親を事故で亡くした主人公おっこの心の再生にフォーカス。祖母の旅館に預けられ、おかみ修行に健気に励むおっこの姿に、東日本大震災時、不安な親を気遣って敢えて明るく振る舞っていたという子どもたちのエピソードが重なる。おっこにしか見えないユーレイの存在など心理学的にも興味深い表現が満載で、喪失の痛みを知る大人こそ心に突き刺さるに違いない。
おもてなしに徹して客を癒し、少女の生きる力が甦る快作!
キャラデザインや題名からイメージする内容とは異なり、大人も心揺さぶられる珠玉の名篇。眼には見えない存在に見守られながら、旅館で接客業に従事する少女の生が漲っていく。食で客を回復させ、自らも成長する。作画や美術がハイレベル。ジブリの伝統を引き継ぐ高坂希太郎監督は、『千と千尋の神隠し』よりも苛酷な境遇のヒロインに、残酷な出会いをも与えてトラウマを克服させる。自我に囚われず、おもてなしに徹することで発現する力を、淀みなく描く吉田玲子の脚本が鮮やか。きっと、劇中の名言好きなライバル少女なら、「今いる場所で力いっぱい生きるしかない。by宮崎駿」と評するに違いない、児童文学アニメの快作だ。
じつは、ポスト『この世界の片隅に』
原作は児童文学にして、往年のTBSドラマ風タイトルに尻込みしそうだが、かなりオトナ向け。旅館業に四苦八苦しながら、自分で選んだわけでもない人生を受け入れるヒロインの姿は、『この世界の片隅に』のすずに通じるだろう。彼女がさらなる一歩踏み出すきっかけが伝統芸能というあたりは『BU・SU』のようで、ファンタジー要素である幽霊との交流は「花田少年史」らしさも感じる。自然描写の美しさなど、『千と千尋の神隠し』の作画監督だった高坂希太郎監督の仕事もかなり堪能できるうえ、PTSD克服までを描く吉田玲子の脚本がこれまたスゴい。それだけに、あまりにサクサク進む展開が逆にモノ足りない。