ハナレイ・ベイ (2018):映画短評
ハナレイ・ベイ (2018)ライター3人の平均評価: 3.7
”泣ける”をウリにしない潔さ
子を亡くした母親サチの10年間の心の旅路を追う。
余白の多い作品だ。その心情を安易に言葉にすると嘘が見えてしまう。
そこで松永大司監督は、演じる吉田羊に徹底的に委ねた。
息子が愛したハワイの大自然と向き合いながら、その死を受け入れようと模索する姿を。
『トイレのピエタ』の時は俳優を若干強引に脚本で動かそうとする嫌いがあったが、そこは監督としての大きな成長だ。
同情されるのを好まないサチの心情を表すかのように、観客の涙腺を誘うシーンの余韻を断ち切る編集もいい。
賛否あるだろうが、”泣ける”を売りにする作品が多い中、サチの葛藤を簡単に感動の道具にはさせまいとする気骨さを評価したい。
家族の死に抗う心の彷徨を、見事に演じきった女優吉田羊の新境地
ハワイの海で死んだ一人息子。抗えない現実を受け入れられない母の歳月。村上春樹「東京奇譚集」の短編が、カウアイ島を舞台に松永大司の監督・脚本・編集と近藤龍人のキャメラ、そして吉田羊の好演によって見事に肉化された。淡々としているというよりも、余白と余韻が多い映画だ。若手男優の生硬な演技に不安に陥る瞬間もあるが、ハルキ文体に縛られることなく、原作になき出来事によって膨らませ、松永は静かに待ちつづけ、終盤に懸けている。ゴースト・ストーリーを浜辺の若者たちは口にするが、母の眼には見えないという残酷。喪失感に苛まれながらも毅然と生きようとする母の抑制が崩れ出し、ただひたすら彷徨う姿が激しく胸を打つ。
吉田羊の芝居を堪能するための映画
これはもう、女優・吉田羊を堪能するための映画と呼んでも差し支えなかろう。主人公は一人息子を10年前にサーフィン中の事故で亡くした女性。それ以来毎年、事故現場のハワイへ通い続ける彼女は、偶然知り合った日本人の若者たちに亡き息子の面影を重ね、やがて自身の内面と向き合うことになる。心に抱えた深い喪失感を処理できずにいるヒロインが、次第に悲しみを受け入れていく姿を演じる吉田羊の芝居は圧倒的だ。しかし、肝心の映画そのものからエモーションが感じられない。あえて余計な説明を省いて突き放した演出は、物語から感情のうねりまでも奪ってしまったように思う。若手俳優(村上虹郎除く)や現地俳優の芝居も弱い。