彼が愛したケーキ職人 (2017):映画短評
彼が愛したケーキ職人 (2017)あなたが過ごした場所をこの目で確かめたい。ただ、それだけ
愛した人を亡くしたが、どうしてもその人をもう一度「感じたい」。その思いだけに突き動かされ、ベルリンからエルサレムへ向かったケーキ職人は、しかし強い思いを表情には一切出さず、愛した相手の触れていたものに近づく。そこには常人では決して感じられない相手の「体温」が残っていたのだろう。究極の愛の姿を描く今作が見事なのは、直接的に表現しない気持ちや、シーンとシーンの間で省略される描写、じつは事実を察知していたと思われる行動など、観る者の想像に委ねる部分の効果が異様に高いところ。目では見えない場所に、真実は宿るという作品のテーマとも重なる。想像力のさらに先を試すような、近年稀にみるエンディングに心震えた。
この短評にはネタバレを含んでいます