ミューズは溺れない (2021):映画短評
ミューズは溺れない (2021)観るべき映画、知るべき新鋭監督の船出
スケッチブックに鉛筆を走らせる音から、高校美術部の朔子(上原実矩)が図らずも“絵のモデル”(ミューズ)になる事件が起きる。表現の持つ加虐性が提示されつつ、本作では「描かれる側」も「描く側」。『燃ゆる女の肖像』に通じながら決定的に異なるのは、クリエイター同士の相互対話という点。監督の淺雄望は創作を通した人間信頼を軸に、思春期に強くせり上がる様々な主題を詰め込んだ。
音の設計が素晴らしい。そして「とりあえず目の前にあるものを繋げてみよう」という意志の船出が、オリジナル(個々)の形になる。トライ&エラーやスクラップ&ビルドから立ち上がる肯定性。地球の果てからでも私たちの方舟は大海に進み続ける。
この短評にはネタバレを含んでいます