白鍵と黒鍵の間に (2023):映画短評
白鍵と黒鍵の間に (2023)フリーキーな異能の祝祭
冨永昌敬監督の以前からの自作解題――彼の映画ではどこかの段階で「ダメ」が「バカ」に変身するとの特異なセオリーに倣えば、本作は池松壮亮が「南/博」という分割された同一人物を演じる事で「ダメ」と「バカ」が同じ空間に登場する。これは初の試みだが、同時にフリージャズ的な冨永本来の狂った遊戯性を高純度で感じるものだ。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』の青春年代記とは全くアプローチを変え、魔界の如きバブル沸騰期の銀座という箱庭に三年間を圧縮。ビルとビルの谷間に殴り書きされた“EXPLORATIONS”(探究)は、奇しくも同日公開、今泉力哉の『アンダーカレント』と同じくビル・エヴァンスへのオマージュだ。
この短評にはネタバレを含んでいます