ある一生 (2023):映画短評
ある一生 (2023)名も無き庶民の目から見た近代史の歩み
2度の世界大戦にファシズムの興隆など、まさに激動と呼ぶ他ない20世紀の移り変わりを、歴史の表舞台から遠く離れたオーストリアの山岳地帯に暮らす平凡な男性の視点から描く。主人公アンドレアスが一貫しているのは、どんな状況下でも決して不平不満を漏らさないこと。養父による虐待にも劣悪な労働環境にも文句を言わず、政治や社会の動向にも殆んど関心を示さず、ナチズムの台頭も戦争の勃発も、さらには愛する人の死さえも抗えない運命として受け入れ、ただ黙々と日々をサバイブしていく。その生き方の是非はともかくとして、いつの時代も大多数の庶民はそうして生涯を終えたのだろう。市井の目から見た近代史として興味深い映画だ。
この短評にはネタバレを含んでいます