新作『ビューティフル』でハビエル・バルデムを直撃!カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、2度目のオスカー受賞なるか?
映画『ノーカントリー』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したスペイン出身のハビエル・バルデムが、新作『ビューティフル / Biutiful』(原題)について語った。
ハビエル・バルデム出演映画『宮廷画家ゴヤは見た』写真ギャラリー
同作は、バルセロナの闇の世界で、中国やアフリカからの不法滞在者を相手に斡旋業をしていた男(ハビエル・バルデム)が、医者からあと数か月の命であると言い渡される。そこで彼は2人の子供のために、自分が生きた証しを示していく。映画はバルセロナの喧噪の中で、現代が抱える問題を交錯させながら、詩のように綴(つづ)られていく。監督は、映画『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。
アレハンドロ監督は、ハビエルを思い浮かべてこの脚本を書いたそうだが、ハビエルは「そうなんだ! 彼はとてもスマートな男だよ。なぜならアレハンドロから、君のために脚本を書いたんだ。もし君が出演しなければ、他の俳優が出演するだけ……。もちろん、気に入らなければ、断ってもいいよと言われて脚本を渡されたら、僕は断ることができないだろ……(笑)。ただ、僕は彼の作品のファンだったし、彼はこれまで素晴らしい俳優たちと共に仕事をしてきた。だから、そんな彼がどうやってベストの演技を引き出すか、自分は俳優として見てみたいとも思ったんだ。実際の彼は、休むことを知らずに一生懸命働く人だった。彼が我々俳優に提案してくることは演技ではなく、まさに人生の旅路のようなものなんだよ」と語った。ハビエルは、この作品で素晴らしい旅路ができたようだ。
バルセロナの不法滞在者の居住区について「僕はスペインのマドリードに住んでいるからバルセロナも似たような都市だが、このような不法滞在者はどこの国の大都市でもよく見られる。当然僕も世界中の大都市での移民問題や、近代の奴隷と言われる不法に工場で働かされている人々を、新聞やテレビなどで距離を置いて見てきた。だが今回は、そんな地域で暮らす男の設定だから、実際にこの地域に住んでいる人々と共に暮らし、彼らの話を聞いてみたんだ。すると、彼らとの経験はこの映画のための知識ではなく、むしろ個人的で感情的なものとして僕の中に形成されていったんだ。それは、ただ紙面上で理解することと、彼ら(不法滞在者)から実際に影響を受けたこととの違いだと思う。だから映画を通して、こういう環境下についてより理解を深めることができたんだ」と、ハビエルは満足なリサーチができたことを語った。
また、恋人役を演じたマリセル・アルバレスについては「僕とアレハンドロは、この恋人役のために、何日もオーディションをしたんだ。実際には、スペインを代表するような女優たちもこのオーディションに参加してくれて、素晴らしい演技を見せてくれた。ただ、この役は単純ではなかったんだ。女優にとって、ある程度の感情の起伏を表現することは簡単だが、まるで違った人物になってしまうことは難しい。それが、この恋人役が持つ双極性障害(バイポーラ・ディスオーダー)なんだ」と難しい役であることを説明してくれた後、「マリセルがそのオーディションの一番最後に現れたときは、僕らはまた2、3か月かけて女優を探さなければいけないと思っていたんだ。ところが、彼女が演じたシーンを見て、僕らは震えが止まらなかったんだよ。実は彼女はこれまで映画に出演したことが1度もなかったが、僕らにはそれが全く気にならなかったくらいだ」とこうして、パフォーマンス・アーティストとして活動していたマリセルを雇うことになったそうだ。
この映画は、ハビエルにとってこれまで出演した映画作品の中で、最も精神的に辛かった作品だったそうだ。そのためアレハンドロ監督は、ハビエルがこうなることを理解してか、すべてのシーンを時間の経過通りに撮影し、ハビエルが演じやすいようにしたそうだ。同作は、日常の世界から生まれる非情で冷たい現実と、影の中を照らす木漏れ日のような温かみを持った映画に仕上がっている。ハビエルの次回作は、映画『天国の日々』や映画『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督のタイトル未定のプロジェクトに参加するらしい。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)