コーエン兄弟を直撃、初めてのウエスタン作品について語る!
映画『ノーカントリー』でアカデミー賞作品賞、監督賞、そして脚色賞まで受賞したコーエン兄弟が、初めてウエスタンに取り組んだ新作『トゥルー・グリット(原題) / True Grit』について語った。
ジョエル、イーサン・コーエン監督映画『シリアスマン』場面写真
同作は、父親を殺された14歳の少女(ヘイリー・スタインフェルド)が、隻眼の保安官コグバーン(ジェフ・ブリッジス)と若きテキサス・レンジャー(マット・デイモン)を雇って父親殺しの犯人を追跡していくというストーリーで、1969年にジョン・ウェインが主演した傑作西部劇『勇気ある追跡』のリメイク作品でもある。
コーエン兄弟はすでに映画化されているこの作品を、なぜリメイクしようと思ったのか。「まず、僕ら二人ともチャールズ・ポーティスの原作(「勇気ある追跡」)に強く惹(ひ)かれたからなんだ。すでに映画化されているのも知っていた。ただ、オリジナル作品を子どものころに観てはいたが、僕ら二人ともそのオリジナル作品を全く覚えていないんだよ。それに、それ以来ずっとそのオリジナル作品は観ていないから、この映画はオリジナル作品からの影響が全くないんだ」とイーサンが明かした。そのうえジョエルは「あるシーンで、急にオリジナル作品だったら、どうやって撮っただろう?と一時期考えてみたことは撮影中にあったが、それでもオリジナル作品を借りて観ることはなかったね……(笑)」とあくまで原作が今回の製作理由だったようで、オリジナル作品がジョン・ウェインが演じた保安官の視点で描かれていたのに対し、この映画では少女の視点で描かれている。
演技派の俳優の中で、主人公を演じた紅一点の若手女優ヘイリー・スタインフェルドのキャスティングについてジョエルは「原作がもともと南部の特徴のある方言というだけで、何千人も居た多くの候補者を落とすことになった。それは、いかにその方言を自然に話せるかが問題だったからなんだ。ところがヘイリーは、最初の段階からうまく話せていたんだ。今回は、キャスティング・ディレクターのレイチェル・テナーが南部に住む女の子たちの中から、この役柄にあった少女を探したがなかなか見つからず、結局ヘイリーをロサンゼルスで発掘したんだよ。彼女は、これまでテレビ映画ぐらいしか人目に付くような作品に出演していなかったが、ジェフ・ブリッジスやバリー・ペッパーらとの最初のシーンから、すでに物おじせずに演じていて、乗馬もうまくこなしていたんだ」と新人女優を高く評価した。
撮影中困難だった点については、「ニューメキシコ州のサンタフェとテキサス州のオースティンと半々ぐらいの割合で撮影を行ったが、最も困難だったのは天候だったね。この映画はほとんどは野外撮影で、撮影中はずっと天候に恵まれなかったんだ」とイーサンが述べたが、それでも常連撮影監督であるロジャー・ディーキンスが見事に広大な景色を映し出している。
共同監督について「僕らのやり方は、ほかの監督たちとたいして変わらないと思う。まず脚本を書く前の時点で、その題材へのお互いの観点を確かめ合うから、撮影中に俳優に指示するときにお互いの意見が食い違うことはないんだ。それにリハーサルもするから、俳優たちも僕らの意見をよく理解してくれている。そのうえ、25年以上も二人でやってきたから、今さら大きな問題なんてないと思う……」と長年の共同製作がもたらしたたまものであるとジョエルが話した。
映画は、コーエン兄弟独自のウエスタンと言える作品に仕上がっている。そのため、ジョン・ウェインのオリジナル作品を先に観ずに、あえてこのコーエン兄弟の作品を見た後で鑑賞しても良いかもしれない。
(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)