「エヴァ」の庵野監督、実写初プロデュースに「監督よりもプロデューサーは楽でいい」とお気楽発言!?
23日、池袋の新文芸坐で映画『監督失格』公開記念オールナイト上映「しあわせなバカタレ」が開催され、本作プロデューサーの庵野秀明、そして平野勝之監督の自主映画時代の作品の一挙上映が行われた。
平野監督11年ぶりの劇場公開作となる『監督失格』は、「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野にとって実写映画初プロデュース作品となる。「平野さんはいつも一人でやってる監督なので、出来上がったものに対して、とやかく言われる現場を今のうちに体験してもらいたかった。上から目線ですね(笑)」とコメントする通り、普段のひょうひょうとした雰囲気とは違い、プロデューサー・庵野は相当なSキャラだったようだ。「ニヤニヤしながら『まだまだ平野さん、覚悟が足りませんね』と言うんですよ。相当なサディストですよ」とふくれっ面の平野監督に対して、「プロデューサーは監督に比べて楽だなと思いましたね。興行的にはあれですけど、内容的には責任をとらなくていいんで。これなら年をとっても続けられる。(スタジオジブリの)鈴木さんも、本作プロデューサーの甘木(モリオ)さんもみんな楽でいいな。平野さんもやってみたらいいですよ」と冗談とも本気ともつかないコメントに会場は大爆笑。しかし、この日の司会を務めていた甘木プロデューサーだけは苦笑いだった。
しかしそんなお気楽発言とは裏腹に、実は庵野流プロデュース術は過酷なものだったようだ。「平野さんは追い詰めてなんぼですから。こう見えても、みんなでこういう風に追い詰めましょうと作戦会議をやりながら、段階を踏んで追い詰めたんですよ」と振り返る。庵野自身は、これまで多くの女優を追い込み、女性のむき出しの感情を露わにさせてきた平野監督の1990年代AV作品を「実用的なものではないが、当時の映像の最先端だった。観ていて痛々しいものばかりだけど、面白い。人間がむきだしのままに映っていて、アニメと対極」と高く評価する。それらの作品を想定したのか、本作では平野監督を逆にとことんまで追い詰めている。「だからこそ(『監督失格』は)これだけの作品になった」と庵野監督が自負すれば、平野監督も「20年くらいに一本出来るか出来ないかの映画」と自信を見せた。
自主制作映画の登竜門的コンテストであるPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に1985年から1987年まで3年連続で入選を果たすなど、自主制作の世界では当時からすでにスター監督だった平野監督。この日上映された『GUST』 『ハシ』『狂った触角』『人間らっこ対かっぱ』『銀河自転車の夜』といった作品群は、脚本のない即興的な演出と、自転車などに乗りながらの移動撮影が全編フィーチャーされており、とにかく前へ、前へと進もうとするパワーが圧倒的だ。
自身、「ワイドレンズでファインダーを覗きもしない。同時録音でバッと回す感じ」と解説する平野演出は、初期から現在まで根本的な部分が変わっていないことが分かる。また、この日最後に上映された自主映画時代の平野作品の金字塔『愛の街角2丁目3番地』は、大友克洋の原作作品ではあるが、物語要素を途中から放棄。スクリーンではオカマ姿となった若かりし日の園子温、鈴木卓爾らによる狂騒が延々と続き、そしてそのカオスが次第に陶酔感を呼び起こす。まさに8ミリフィルムの映画でしか体験できないような稀有(けう)なる映画体験となっている。完成した作品には、原作のかけらもないことに大友克洋が思わず苦笑したという逸話も残されているほどだ。上映が終ったあとは、ただただあっけにとられ、椅子から立ち上がれない者、そして映画のパワーが乗り移ったかのようにナチュラルハイ状態で語り続ける者など、来場者それぞれに強烈な印象を与えたようだ。
この日は、庵野プロデューサーの自主制作作品『へたな鉄砲も数うちゃあたる!』『じょうぶなタイヤ!』『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン』『流星課長』も上映された。(取材・文:壬生智裕)
映画『監督失格』は9月3日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズにて独占先行公開