27歳ガン発症、生存率は50%…ガンをネタに笑いをとるある意味タブーの事実に基づく物語『50/50』に話題集中
第36回トロント国際映画祭
実はアメリカでは今「ブレイキング・バッド」という、肺ガンになった学校教師がドラッグを作って元教え子に売り、自分が亡くなる前に、家族に資産を蓄えようとするテレビシリーズが大人気となっている。さらに「ザ・ビッグ・シー(原題)/ The Big C 」というローラ・リニー演じるこちらも学校教師が、ガンになるところから始まるテレビコメディ・シリーズなどもあり、いまだ解決できない人類の難題に、なんとか向き合っていくのが、ある種のトレンドとなっている。それが要因というわけではないと思うが、トロント国際映画祭で上映されたこの泣けるて笑える作品『50/50 フィフティ・フィフティ』もすでに話題になっている。
『(500)日のサマー』で圧倒的な人気を獲得したジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じるのは、わずか27歳でガンを宣告されるアダム。その親友を『40歳の童貞』『スーパーバッド 童貞ウォーズ』など今ハリウッドのコメディ界を牽引するセス・ローゲンが演じ、ガール・フレンドをブライス・ダラス・ハーワード、心理療法士をアナ・ケンドリックが演じる。
この物語は、実はセス・ローゲンと当時サシャ・バロン・コーエンの人気テレビ番組「アリ・G」ショーの脚本を一緒に書いていた親友で今作の脚本家である、ウィル・ライザーとの間に実際にあった話を基にフィクションにしたもの。ライザーがガンになってしまい、ローゲンと彼は、とにかくその現実となんとか向き合う手段として「笑い」を選んだのだと言う。
「だからと言ってもちろんガンそのものを笑いにしたわけじゃないよ!」とローゲンは記者会見でコメント。「それを笑いにするのは至難の業だからね。それよりも、それに付随することをなんとか笑いにしようとしたんだ」「現時点でこの映画を観た同じようにガンを克服した患者さんからもクレームがひとつも来ていないのがだから何よりうれしい」とも。ライザーのガンはその後無事完治している。
映画の中では、親友がガンであることを利用して、なんとか女の子を誘おうとするローゲン演じるカイルだが、ライザーによると「当時の彼は、女の子に声をかける勇気すらなかったよ(笑)」と。しかし、実話が基になっているので、ローゲンの演じる役は、心があって、真実味があり、映画のほとんどでは思い切り笑えるが、一番の泣きどころも彼がかっさらう。
今ナイーブな男性を演じさせたらハリウッド一という主役のジョセフ・ゴードンはハマり役だが、実は、当初ジェームズ・マカヴォイが演じることになっていたのが、急きょ家族の事情で直前に降板。数日の準備期間で演じたとは思えない見事な演技力を見せている。
しかも「実際の彼はすごく自分に自信があって、この役とは真反対なのにね」とローゲン。「笑いが唯一の癒しだった」とローゲンもライザーも語るが、実に難しいテーマを、恐らく実体験を基にしているからこそ、心あるたくさんの笑いとそして涙に変えた本作は日本公開は12月予定だ。
ちなみに、タイトルの『50/50 フィフティ・フィフティ』は、主人公の生存率が50%、だったことからつけられている。監督のジョナサン・レヴィンは、「タイトルを付けるのが一番難しかった」と語っていた。「本当に笑えて泣ける作品なのに、変に重くなりすぎて、観る前に観客を遠ざけることだけはしたくなかったからね」と語った。(取材・文:中村明美)
映画『50/50 フィフティ・フィフティ』12月は、TOHOシネマズ渋谷、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開