東日本大震災の被災地の状況を描いたドキュメンタリー映画『無常素描』がニューヨークで上映！
今年、日本に未曾有の災害をもたらした東日本大震災の被災地の状況を描いたドキュメンタリー映画『無常素描』が、ニューヨークで開催されたDCIFF(Dialogue of Cultures International Film Festival）で上映され、大宮浩一監督がインタビューで語った。
同作は、東日本大震災から50日後の4月28日～5月4日まで、被災地で出会った人々と風景を淡々と切実に描いたドキュメンタリー作品で、ナレーションがなく、土地や人物名を明かさずに、灰色に染まった荒野と深い爪痕を残した現状を捉えている秀作。大宮監督は、映画『ただいま それぞれの居場所』で文化記録映画大賞を受賞している。
東日本大震災からわずか50日後の撮影だが、多くの被災者がこれまで住んでいた土地を離れたくないと言っていることについて「このときは、実際に離れたいと思っていた人たちは皆無じゃないですかね。原発のこともありましたが、当時はろくな交通の手段もなくて、そこに留まらざるを得ない環境でした」と現実的に無理な状況であったことを語った後、「確かに僕は彼らに（被災者）にインタビューはしていますが、僕は何か目的があって彼らに聞いているわけではなく、この映画はダイアローグ（対話）ではなく、彼らのモノローグ（独白）として描いています。僕が何かを彼らに聞いて、それを答えてもらったわけじゃないんですよ」と語った。映画内では、被災者のモノローグに心を締め付けられる。
映画内で、福島県三春町の福聚寺で住職を務める玄侑宗久氏は、「経済原理は東京に比べ遅れた（被災地）地域だが、遅れた地域だからこそ守りたいものがある」と言っているが、具体的に何を示しているのか。「あれは玄侑さんの考えで、僕自身もシンパシーを感じていたので、その部分を使っていますが、僕も玄侑さんがどういうつもりで言ったのかわかりません。ただ、僕も東北で育った人間として、この地は農業や漁業をつかさどる第1次産業(農業、漁業など）が盛んな地域なんです。それが近代以降から第3次産業（小売業やサービス業など）にシフトして、食料自給率が40％を切っている現況の日本では、もっと安いところから買った方がよいという考えに変換してしまって、そういう意味では遅れを取っている地域なのかもしれません」と語った通り、これは、今回の災害がもたらした被災というところだけを観る映画ではなく、色々な意味でシステムが崩れ、限界がきていることも感じ取ることのできる重要な映画なのかもしれない。
被災したことで本来人間が持っている、生かされている人生と感じる人々の境地について「あれだけの大量死と向き合った中で、本来は人が持っていたものかわかりませんが、生き残ってしまった贖罪感というか、なんで、わたしだけが（助かった）という感情を（被災者から）受けましたね。生かされていること自体は本来人間的なものかもしれませんが、被災から50日目で、ある程度は現実を理解して生きざるを得なくて、そういう中で僕ら外の人間に対して、（被災者は）胸の内を告白できたんだと思います」と答えた。当時、なかなか生き残った被災者が、身近な人との語り合えなかった重い言葉が映画内で残されている。
今回、ニューヨークの映画祭に出展されたが、ニューヨーカーは10年前に世界中を震撼させた同時多発テロを体験し、未曾有の被害を受けた視点から、この映画は深い意味合いをニューヨーカーにもたらすのではないか。「あの10年前の出来事と直接結びつくかわかりませんが、アメリカ国内ではハリケーン・カトリーナの災害もありましたね。アメリカ国内の人々にも鮮明な記憶があり、そういうときに被災者の方々が、それこそ今までなかったが、助け合う共同体を瞬時に作るんです。行政というものが入ることなく、自分たちで作るという、あのときの同時多発テロでの行い、思いを感じて、ニューヨーカーたちにも観てもらえることを期待はしていますね」と述べ、後に行われたニューヨークでの上映でも高い評価を受けたようだ。
最後に監督は「この映画はスケッチブックのイメージなので、僕としては観客に淡い色（個人的概念）を付けてもらって、観客一人一人がこの絵（映画）に近付いてもらえればと思っています」と話した。あるがままに描かれた映像は、どんな言葉よりも多弁に語り、我々の胸に刻まれていく。 取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)