ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督を直撃!ダンサーたちの意志がなければ、製作を断念していた?
映画『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』などを手掛けたドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされている新作『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』について語った。
ヴィム・ヴェンダース監督の新作『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』写真ギャラリー
同作は、2009年に急逝した天才舞踏家ピナ・バウシュの振り付けによるコンテンポラリーなダンス構成と類いまれな演出を、彼女が育てたダンサーたちのパフォーマンスを通して、臨場感あふれる3D作品として描いた力作。
20年来の友人であったピナ・バウシュさんは、あまり口うるさいタイプではなかったらしい。「彼女は、あまり喋らない人物として有名だった(笑)。それに、彼女の演出手法も言葉に頼っていなかったんだ。まず、彼女はどのような内容にしていくか頭で描いてから、その内容をダンサーへの質問形式にしてノートに書き出し、そして、その質問をダンサーにぶつけるんだ。ただ、ダンサーも口では返答できず、即興的なダンスや動きで表現して、彼女の質問に答えていくんだ。そんなダンサーたちの表現に対して彼女は、もっと詳細に!とか、陳腐な表現ね!と答えたりして、そういった作業が何度も繰り返され、一つの形になっていくんだよ」とピナ・バウシュの演出方法を明かした。
ヴィム・ヴェンダース監督は今作で3Dに挑戦し、今後も3Dで制作したいと語っているが、具体的なその理由については「3Dは、すでに映画の言語としての地位を確立していると思うんだ。もともと僕は回帰することは好きじゃなくて、一度3Dを知った以上、もう元に戻りたいとは思わなくなっているんだ。今作の撮影前のテストを含め、かなり深く3Dにかかわったと思っているし、撮影後も3Dで短編を撮ったくらいだよ。現在、大きな配給会社が金儲けの手段として3Dで撮影をしているが、僕はシリアスなアート作品としても十分に成り立つと思っているんだ」と語ったように、そのダンサーたちの緊迫したパフォーマンスは、3Dを通して目に焼き付いてくる。
撮影の準備段階でピナ・バウシュが不幸にも亡くなってしまったが、彼女の死によって映画の内容に変化はあったのか、という問いに「実は僕とピナは、60ページにもわたるコンセプトを書いていたんだ。そのコンセプトには、ブラジルや東南アジアで撮影されるコンセプトも含まれ、リハーサルや彼女が批評するような内容もあって、完全に彼女の観点から描いた映画にするつもりだったんだ」と全く違った内容になっていたことを明かし、さらに「だが、彼女が亡くなってしまい、制作するのが不可能になり、一度は僕は製作を断念したんだ。ところが、彼女のダンスカンパニー、ヴッパタール舞踏団のダンサーたちが(この映画の制作を)諦めなかったんだ……。だから、彼らの意志を受け入れて製作することになり、映画の内容はピナが亡くなる前に、僕とピナが選択したものを中心に作り上げていったんだ」と語った。そんなダンサーたちの意気込みが、アカデミー賞ノミネートを勝ち取ったようだ。
温厚で優しい口調で答えるヴィム・ヴェンダース監督は、言葉の節々にピナとの思い出を噛み締めながら話しているように思えた。ピナによって演出されたダンサーの動きは、観る人によってその解釈が変わってくるだろう興味深い作品に仕上がっている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)