細田守作品が世界を肯定する理由…『ハウルの動く城』の挫折から『おおかみこども』までのすべてを語る
細田守監督のアニメーション映画『おおかみこどもの雨と雪』が、20日に発売される雑誌「SWITCH」2012年8月号で特集されている。『サマーウォーズ』から3年、世界中のファンが待ち望んだ細田監督の新作をインタビューや宮崎あおいによる朗読、対談、さらには絵コンテなどの設定資料からひもといた一冊だ。
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「『おおかみこどもの雨と雪』はこの世界を祝福する」と題された特集が掲載された同誌の表紙に採用されているのは、細田守監督自身による幻のポスター案。キャラクターデザインを担当した貞本義行が手掛けた現行のポスタービジュアルに次ぐ第2のビジュアルとしての使用も検討されていたというが、諸事情により実現はせず、今回披露されることになった。
そうした普段ならば表に出ないものが表紙を飾っていることに象徴されるように、同特集はまさに『おおかみこどもの雨と雪』の制作をその裏側から迫った内容に。中でも圧巻なのが、細田監督が自身の経歴を語ったインタビュー。ファンの間では、2000年の映画『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』で一躍注目を浴びた細田監督がその後、スタジオジブリの映画『ハウルの動く城』の監督に抜てきされたことはよく知られている。だがその企画は頓挫し、同作の監督の座は結局、宮崎駿に委ねられることになる。
当時について、細田監督は「簡単に言えば、僕の力不足が原因なんですけど、それによって二度と映画を作るチャンスが失われてしまったと、その時は絶望的な気持ちになりました」(原文ママ)と振り返る。その後はマッドハウスを拠点に『時をかける少女』『サマーウォーズ』というスマッシュヒットを連発するが、映画が作れなくなるかもしれないという気持ちは『サマーウォーズ』を制作時の「映画を作りたいというよりも、映画を通して徹底的にサービスするぞ、という思い」として尾を引くことになる。
そうした気持ちから解放され、「今度はシンプルで力強い映画を」と制作したのが最新作の『おおかみこどもの雨と雪』だ。だが、そうした違いこそあれど、細田監督がこだわるのは、世界を肯定する気持ち。「別に、映画がすべて肯定的なものである必要はないし、様々な価値観の様々な映画があるのはいいと思いますが、僕らは毎日もがき苦しみながらアニメを作っているので、少しでも世界を肯定できる話でないと心がもたない。それで結果として肯定的なものになっていくのではないかと自分では思います」と細田監督は自らの作風の理由について語っている。
ほかにも同特集では同じアニメ監督として大きな影響を受けたという『カラフル』の原恵一監督や漫画家・井上雄彦との対談、そしてスタッフのコメント、声優の宮崎あおい、大沢たかおのインタビューなどが掲載されている。彼らが口をそろえるのは、細田監督は「粘る、妥協しない」ということ。最新作『おおかみこどもの雨と雪』は、そうした細田監督のこだわりが一つの到達点を極めた作品であること。そのことが浮かび上がってくる特集となっている。(編集部・福田麗)
雑誌「SWITCH」2012年8月号は7月20日発売 税込み価格:998円