人肌恋しい年末に訪れたい理想の居酒屋とは?
テレビドラマに続き、映画化された『深夜食堂』から、年末の人肌恋しい時期にこじんまりとした居酒屋、あるいは食堂で過ごす楽しみを考察してみた。
深刻な悩みを抱えているとき、親しい人よりもむしろふらりと立ち寄った飲み屋で出会った見知らぬ誰かに話してしまうことはないだろうか? 映画『深夜食堂』は、シリーズ累計230万部発行の安倍夜郎の原作コミックから派生した人情ドラマ。「メニューは酒と豚汁定食だけ。あとは頼めばマスターが大抵のものなら作ってくれる」というささやかなおもてなしが評判の路地裏の小さな食堂「めしや」を舞台に、食堂に集まるワケありの人々の悲喜こもごもがつづられる。
赤いウインナーが好物の無愛想だが人情に厚いヤクザ・竜(松重豊)、いつもお茶漬けを頼む「お茶漬けシスターズ」こと女性3人組(須藤理彩、小林麻子、吉本菜穂子)、卵焼き好きのゲイバー経営者・小寿々(綾田俊樹)ら、テレビドラマでおなじみの常連客が集結。映画版では、テレビドラマで謎めいた客を演じたオダギリジョーが、ガラリと異なる役どころで出演しているほか、高岡早紀、多部未華子、筒井道隆、田中裕子らが演じる新キャラが、店の常連客達にのっぴきならない身の上話をすることになる。
映画版のオリジナルキャラの中でも特に印象的なのが、多部未華子演じるみちる。無銭飲食をした罪を償うためにマスター(小林薫)の家で住み込みで働くことになり、マスターと「一つ屋根の下で暮らす」のだから、店の客たちと付かず離れずの関係を保ってきたマスターにしてみれば、かなり大胆な関係といえる。そんなみちるのように寄る辺のない人たちが、この小さな食堂で人生で普段なら決して交じわることがないであろう人種との「出会い」を経て、思わぬ変化を遂げていく姿が爽快だ。
しんしんとした夜、寄り添う相手のいないときにはこんな小さな食堂や居酒屋に足を踏み入れてみると、自分を変えてくれる何かがあるかも。映画『深夜食堂』は、そんなほのかな希望を感じられる好編となっている。(編集部・石井百合子)
映画『深夜食堂』は2015年1月31日より全国公開