トランスジェンダーの女性を描いたドキュメンタリー調/ドラマ構成の不思議な映画とは?
ニューヨークのリンカーンセンターで開催中のイベント「アート・オブ・ザ・リアル」で上映された映画『ナオミ・キャンベル(原題) / Naomi Campbel』について、共同監督カミーラ・ホセ・ドノソが語った。
タロット占い師として働くトランスジェンダーのイエメン(ポーラ・ディナマーカ)は、性転換の手術を望んでいたが、お金が足りずにいたある日、整形手術でスーパーモデル、ナオミ・キャンベルのようになりたいという黒人女性に出会うというのが本作のストーリー。カミーラは、ニコラス・ヴィデラと共同監督を務めた。
イエメン役で実際にもトランスジェンダーのポーラについて「彼女とは友達よ。彼女は以前に彼女自身を描いた短編ドキュメンタリー映画『ラ・ビスタ(原題) / La vista』にも出演していた。だから彼女には、同じようなドキュメンタリー映画を製作することはしないと事前に伝えていたの。そこでドキュメンタリーの構成はできる限り使わずに、彼女の人生をいかに伝えるかを考えた」と語った。具体的なアプローチについて「まず彼女に手持ちカメラを渡したの。最初に彼女が撮影したのは、彼女が参加したパーティーで、そのときから、われわれスタッフもその場で即興的な脚本を構成して、彼女にその場で演技もさせたことが製作のきっかけになった」と説明した。
カミーラの祖母も(近所のおばあちゃん役として)出演しているそうだ。「実は、ポーラと共同監督ニコラスを連れて、静かな場所である祖母の家で脚本構成を行っていたとき、祖母とポーラの会話が興味深いことに気づいたの。祖母は伝統的なことを重んじる女性だけれども、普通の人ではなかなか質問できないことをポーラに聞いていて、その内容が面白かったから映画にも含めたの」と明かした。
ポーラとの仕事について「彼女との撮影は非常に有意義なもので、トランスジェンダーのアイデンティティーについて考えさせられたわ。わたし自身もトランスジェンダーに対しての価値観を覆され、良い刺激を与えられた。この作品を撮影したことで、彼女はより街で知られるようになり、多くの人たちから尊敬を抱かれるようにもなったの」と答えた。
本作は、ポーラが撮影した映像はドキュメンタリー調ではあるが、その他はドラマ形式でつづられ、その境目がわからない点が、どこかトランスジェンダーと似ている気がする不思議な感覚の映画だ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)