スピルバーグが最大の障害だった?キング牧師を黒人女性監督が初めて映画化できたわけ
映画『グローリー/明日への行進』で初めてマーティン・ルーサー・キングJr.牧師のストーリーを長編映画化することに成功したのは、アフリカ系アメリカ女性のエヴァ・デュヴァネイ監督。キング牧師の名で知られ、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として絶大な影響力を持ち、今でも語り継がれる彼の勇姿は、なぜ死後40年以上映画化されなかったのか。その理由と、それをどう乗り越えたのか、デュヴァネイ監督が電話インタビューで語った。
「キング牧師のスピーチには著作権がかけられているの。そしてそれは、すでに他の監督のものになっていたわ。その監督っていうのは、スティーヴン・スピルバーグなんだけど。だから、映画の中でキング牧師のスピーチは使えなかったのよ、全て言い換えなければいけなかったの」と驚きの事実を明かした監督は、「だからキング牧師の魂というか、彼が何を伝えようとしたのかっていうことを第一に考えて、全て言い換えていったわ。だって彼のスピーチはこの映画においても、とても重要な役割を担っているから」と骨の折れる作業をはっきりとした口調で振り返る。
キング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォと一緒に、キング牧師の声や話し方を研究したという監督は、その作業が「とても得意だった」と上機嫌に話す。しかし、「(デヴィッドが)キング牧師に似るように、でもあまり似過ぎないように気を付けたわ。元から完璧に似せようだなんて思っていなければ、本物のキング牧師と比較されることはないでしょ? キング牧師っぽさが伝われば良いと思っていたの」とモノマネにならないように演技指導していたことを明かした。
また、監督は歴史的人物を描く上で「正確さはそんなに重要視していなかった」という。「実在した人物を描くのは難しいことだから。みんなを満足させる作品なんかできっこない。『これはわたしの思い描いていたキャラクターじゃないわ』とかね。その歴史的人物を知る当時の人や、現代の人、そしてもちろん家族やファンだっているわけでしょ。だから、わたしがアーティストとして一番伝えたいと思ったストーリーに集中することにしたの。観客を喜ばせることばかりを考えると、最終的にはさえない作品になったりするから。どんなことがあっても伝えたいと思ったことを、この映画できちんと伝えるというのがこの作品での挑戦だったわ」とアーティストとしての固い決意があったことをうかがわせた。(編集部・石神恵美子)
映画『グローリー/明日への行進』は6月19日よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開