名優・夏八木勲さんの遺作が初日…夏八木さんとの撮影を監督が述懐
2013年5月11日に逝去した名優・夏八木勲さんの遺作『ソ満国境 15歳の夏』が1日、新宿K's cinemaで初日を迎え、同作のメガホンをとった松島哲也監督が撮影当時を振り返り、故人をしのんだ。この日は柴田龍一郎、金澤美穂、清水尚弥、清水尋也、六車勇登、三村和敬、そして原作者の田原和夫さんも来場した。
日中戦争において、当時のソ連と満州の国境付近に置き去りにされた新京第一中学校の生徒の過酷な逃避行を、東日本大震災で被災した福島の中学生の目を通して描いた本作。この日の客席は満席で、入場できずに帰った観客の姿もあったという。そんな劇場の様子を目の当たりにした松島監督は「こんなに朝早くから、皆さまの顔を見ると感無量でございます。15歳という大事な時期に少しでも戦争の不安がないように。15歳の夏を平和に生きられるようにという願いで作った作品です」とあいさつ。
亡くなる直前まで映画、ドラマなど精力的に仕事に励み、「生涯現役」を貫いた夏八木さん。「台本を読んで、二つ返事で出たいと言ってくださった」と語る松島監督は、「第1候補の俳優さんに出ていただいて幸せでした」と述懐。さらに「撮影は2012年の11月。福島県の仮設住宅のある中学校で行われました。そのときの夏八木さんは大変お痩せになっていて。立っているのも苦しげな様子でしたが、われわれが椅子を差し出しても、座らずに。最後まで立っていらっしゃったお姿が今でも鮮明に残っています」と付け加えた。
また戦後70年という節目の年に映画が公開されることについて「この国がどうかじを取ろうとしているのか。これほど考えざるを得ないときはなかった。福島も収束される気配もありません。これからの15歳がより自由に生きて、夢を持てるようになれたらと思います」と語る松島監督。原作者の田原さんも「最近の世の中の動きを見ておりますと、とても危うく、心配です。わたしは自分の体験からも戦争反対です。そんなときに松島監督の映画ができてうれしく思っています。皆さんも映画をご覧になって考えることもあると思いますが、わたしも考えたいと思います」と会場に呼び掛けた。(取材・文:壬生智裕)
映画『ソ満国境 15歳の夏』は全国順次公開中