イザベル・コイシェ監督初のコメディーは“下ネタ”に技あり!撮影秘話を明かす
『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』などで人気のスペイン人監督イザベル・コイシェが、新作『しあわせへのまわり道』において、自身の人生とシンクロするという思い入れの深さを語った。
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本作のヒロインは、ニューヨークの売れっ子書評家として順風満帆の人生を送っていたはずの中年女性ウェンディ(パトリシア・クラークソン)。20年連れ添った夫に突然捨てられ心身共にボロボロになった彼女が、ひょんなことから知り合ったインド人タクシー運転手ダルワーン(ベン・キングズレー)から自動車レッスンを受け、運転免許取得を目指すことで人生の最もつらい時期を乗り越えようとする物語。コイシェ監督はキャサ・ポリットの原作小説「Learning to Drive」の大ファンだそうで、このエッセイを読んだ当時、監督自身もヒロインと同様、離婚の手続き中で、物語から影響を受けて運転免許を取る決意をしたという。
コイシェ監督は「パトリシア(・クラークソン)が、『エレジー』を撮影しているときにこの原作をくれたんだけど、わたしは主人公とまったく同じ体験をしていたのよね。そんなときに10ページ程度の短編を読んで、ものすごく救われたの。それはわたしに何が大事なのかを気付かせてくれたから。つまり、それが世界の終わりではない、ということ」とヒロインに自身を重ねたこと、そして物語の持つ前向きなメッセージに救われたことを明かす。
本作の特筆すべき点は、これまでのコイシェ作品の作風とは打って変わったコメディー・タッチになっているところでもある。その重要なアクセントになっているのが、ヒロインのウェンディらが繰り広げる“下ネタ”の数々。そういった大人のジョークを盛り込んだ理由について、「わたし自身に笑いのセンスはあると思うけど、コメディー映画を作るのは本当に本当に難しい」としながら、「この映画においては、コメディーや、下ネタを描くような大人のトーンが必要だとわかったからなのよね。それが理解できてからは、簡単だったわ。それに、コメディーをはじめ、これまでやったことのないことに挑戦したいと思っていたから」と語り、初尽くしの現場を振り返った。
撮影期間は5週間。ニューヨークでの撮影とあって、ほとんどのシーンが2テイクが精いっぱいだったそうだが、唯一何回もテイクを重ねたシーンがあった。「ダルワーンがウェンディの顔を触るシーンがあるんだけど、わたしはベン(・キングズレー)にそれを5回以上やってもらったの。だけど、実は5回もやってもらう必要は全然なくて、単に彼の演技を観ているのが快感だったからなの(笑)。彼は毎テイクごとに少しだけ違うことをしてくれて、まるでロボットのように慣れない手付きで触って、すぐに去ってしまうさまを少しずつ変えてくれたわ……」とちゃめっ気たっぷりに、キングズレーの名演に思いをめぐらせた。
ちなみに、コイシェ監督はヒロインと同様運転免許の取得に成功したものの、「わたしが車の免許を取ったのは道がだだっ広いLAだから車の運転はできるんだけど、駐車までは無理」だそうで、「でも、スペインでは駐車の仕方がわからないと困るわけ。だから今度はこの映画『Learning to Drive』(=運転の仕方・原題)の続編として、『Learning to Park』(=駐車の仕方)という映画を作る予定よ(笑)」といかにも彼女らしいウイットに富んだジョークを飛ばした。(取材・文:編集部 石井百合子)
映画『しあわせへのまわり道』は8月28日より全国公開