カフカ題材×足立監督の怪作!警官、マッドナース、監獄、宗教家…幻想的イメージの連続
1960年代に“アングラの旗手”として知られ、後にパレスチナ革命に身を投じた伝説的映画監督・足立正生の新作『断食芸人』の日本初試写会が24日、東京・日本外国特派員協会で行われ、足立監督と本作に出演の詩人・吉増剛造氏、映画史家・比較文学者の四方田犬彦氏が出席。三人は「政治的に揺れる今の日本社会に対して、本作の意味は?」といった質問に答えながら、同作の見どころを語り合った。
前作『幽閉者 テロリスト』から9年ぶり。本作はフランツ・カフカの短編小説「断食芸人」を翻案し、現代日本のどこにでもあるアーケード商店街に突然現れた断食男の存在が巻き起こす波紋を、ドタバタ喜劇風に描く。また、警官、マッドナース、監獄、宗教家などのイメージも幻惑的に展開される。
足立監督は「昔からカフカは大好きで、特に『断食芸人』は落語のように大いに笑い飛ばせる内容。2015年に感じることを表現できると思った」と話す。「尊敬するカフカ原作で、尊敬するオーソン・ウェルズが監督した映画『審判』(1963)が念頭にありました」と足立監督。
断食男の前で朗読する詩人として登場する吉増は「普段の詩の朗読が、何の演技もなく、そのまま映画に接続した。足立さんは同じ年の生まれで、わたしの世代の最良の映画人の一人。その敬意が、自然に詩を映画に接続させたんでしょう」と振り返り、「特に『断食芸人』はカフカが死の直前まで校正を施していて、彼のスピリットが結晶したような作品」と言い、「この映画自体、竜骨のような、骨のような作品として出会うことができた。お祝いを申し上げたい」と完成を祝福した。
『幽閉者 テロリスト』に登場もしている四方田も、足立監督について「足立さんは50年前、大島渚監督の『絞死刑』(1968)に警官役で出演しているんですが、『絞死刑』はドタバタ劇でモンティ・パイソンの先駆けだった。今思うと、大島さんも足立さんも、政治風刺のブラックユーモアをずっとやってきたんです」と解説し、「特に本作には、かつてあったエスニックマイノリティーへの人種差別事件を思わせるシーンがある。ネトウヨ(ネット右翼)といわれる動きを含めて、今日性を感じた」と見どころを話す。
本作の今日的意味を問われた足立監督は「長い間、僕は海外出張してゲリラをやったりしたんですが、そのときから革命も映画も同じと思っているんです。今も目を覆いたくなるデタラメが起こっているが、まだ次に行けるとも思っている。今度の映画は、自分で割合よくできたと感じていて、アーティストとして自分はまだ十分生きていると思いました」と笑顔とともに自信を表していた。(取材/岸田智)
映画『断食芸人』は2016年春、東京・渋谷ユーロスペースにて公開