山田五郎、数奇な運命をたどった名画「黄金のアデーレ」の魅力を力説!
オスカー女優ヘレン・ミレン主演、ナチスに奪われたグスタフ・クリムトの名画をめぐる実話を描く映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』の特別試写会&トークイベントが19日、都内で行われ、本作の舞台ウィーンに留学経験もある美術評論家の山田五郎が登壇し、物語の背景や名画「黄金のアデーレ」について解説した。
本作は、ナチス占領下のウィーンからアメリカに亡命したユダヤ人女性マリア・アルトマン(ミレン)が、戦後、オーストリア政府を相手に、自身の伯母アデーレを描いたクリムトの名画・通称「黄金のアデーレ」の返還訴訟を起こした実話に基づいた感動のドラマ。82歳だったマリアが本当に取り戻したかったものとは……。
「オーストリア東端にあるウィーンは、文化的に特別な街という印象でした」と留学経験を踏まえて語る山田は、「(本作の)マリアさんの結婚式のシーンもそうですが、ここには当時のヨーロッパ文化の粋(すい)といえるクリムト、作曲家マーラー、精神分析学者のフロイトらがいた。もしナチス占領がなかったら、もっと進んでいたかも」と熱弁。さらに、「画家志望だったヒトラーはウィーンに拒否されたわけで(ウィーン美術アカデミーを受験し不合格)、絵画への愛と憎しみがヒトラーたちが集めた美術品に表れている。質と量のスケールが半端ない」と数万点といわれる美術品を略奪したナチスについても言及した。
山田は古いアカデミズムから分離して新しい絵画を生み出そうというウィーン分離派の代表になるクリムトは、日本の浮世絵などのジャポニズムの影響を受けていると前置きし、名画「黄金のアデーレ」について、「特に金のドレスの装飾部分。金碧障壁画や唐草模様などの影響が感じられるでしょ。クリムトは、美術と工芸の融合という志向があって職人性が高く、そこがパリの印象派との違い」と本作ポスターを指し示して力説。イベント最後には「本作を観て、美術品ってなんだろうって、改めて考えさせられます。人生を豊かにしたり、狂わせたりする不思議な力を持った特殊な物ですし、絵画には秘められた物語があるんです」と美術の魅力を語った。(取材/岸田智)
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』は11月27日よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマライズほか全国公開