ブダペストに響くヘンテコ昭和歌謡!魅惑の日本人歌手“トミー谷”って何者?
ハンガリーの人気CMディレクター、ウッイ・メーサーローシュ・カーロイが初長編作品として生み出した異色ファンタジー『リザとキツネと恋する死者たち』で、日本大使未亡人宅で住み込みの看護人として働くリザにしか見えないゴーストの日本人歌手トミー谷を演じたデヴィッド・サクライが本作への思いを語った。
奇想天外な本作で一際異彩を放っているのが、昭和歌謡を軽快に歌い踊るトミー谷。日本人なら、「この人、誰?」と思わずにはいられないほどの存在感だが、その役を務めたのはデンマーク・コペンハーゲン生まれ、日本人の父にデンマーク人の母を持つデヴィッドだ。
“日本オタク”のカーロイ監督が那須に伝わる九尾の狐伝説(9本の尻尾をもつ妖狐)をモチーフに10年以上かけて構想を練った渾身の一作というだけあって、トミー谷役を引き受けたときはプレッシャーを感じたと明かすデヴィッドだが、いつもはアクション俳優として活躍しているデヴィッドにとって、脚本を読んで「映画化不可能なのでは?」と疑ってしまうほど一風変わったダークコメディーに挑戦できたことはこのうえない経験になったとうれしそうに振り返る。
陽気な面も持ち合わせていると自己分析するデヴィッドにとって、トミー谷の明るさを出すのはそれほど難しくなかったと語るも、「アクション映画のときはいつもクールで、とてもタフな男でいなきゃいけない。だから、映画でトミー谷役のようにいつも笑顔でいたことはないんだ。そのおかげで、撮影期間中は毎日顔が痛かったよ(笑)」と苦労話もポロリ。
また、トミー谷のヘンテコな昭和歌謡は、これまたカーロイ監督がハンガリーの作曲家と作り上げたオリジナル楽曲で、ハンガリー在住の日本人の協力の下につけられた歌詞は全編日本語。劇中で流れる曲は作曲家が歌っているものだが、撮影現場ではもちろんデヴィッド自らも歌わなくてはいけなかったそうで、「同じ曲を歌いすぎたおかげで、寝ても覚めても頭の中でその曲が流れ続けて、ある意味悪夢だったよ」と語る。そんな面白苦労な経験(?)の甲斐あって、本作は世界三大ファンタスティック映画祭のうち2つの映画祭である、第35回ポルト国際映画祭でグランプリ、第33回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で審査員&観客賞を受賞。映画祭の上映で歌詞の字幕は出ていなかったにもかかわらず、日本語のできる観客が「うわ~、歌詞も映画の世界観をきちんと反映している」と歌詞を理解してコメントしてくれたことが印象的だったと笑顔を見せるデヴィッド。
年に一度、デンマークのテレビで放送される『七人の侍』(黒澤明監督作)は必ず観るようにと母親から言われていたなど、子供の時から日本の映画を観て育ったことを教えてくれたデヴィッドいわく、本作は「ヨーロッパ映画と日本映画が結婚したような作品」だというが、それはデンマークと日本のハーフであるデヴィッド自身とも重なる。そんな思い入れの強い作品が、日本で公開を迎えることにとても感激していた。「映画界に国境は関係なくなってきている。たくさんのヨーロッパ人が日本映画を観ているし、今後日本が世界に向けた映画を作る機会ももっと増えるだろう」と予測し、そんなときに活躍できるチャンスがあればいいと将来に思いをはせる姿が印象的だった。(編集部・石神恵美子)
映画『リザとキツネと恋する死者たち』は新宿シネマカリテ他にて全国順次公開中