『キャロル』監督、セクシャリティーがアカデミー賞を遠ざけた?
第88回アカデミー賞
17日、「六本木ヒルズ LGBT Movie Night」と題されたトークセッション&映画『キャロル』の上映会がTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、六本木ヒルズにオフィスを構えるゴールドマン・サックスやGoogleなど、LGBTをはじめとした性的な多様性を「応援」する企業の当事者や支援者、約100名が集まり、LGBTが生きやすい社会のための現状や課題を語り合った。女性同士の恋愛を描きヒット中の映画『キャロル』の配給元、ファントム・フィルムの担当者も出席し、反響を語る一方で、映画界の現況に苦言を呈する一幕もあった。
LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉で、同性愛や両性愛、性同一性障害など、一般とは別の性のあり方を持つ人たちのこと。
社内に「LGBTネットワーク」を持つゴールドマン・サックスの弁護士で、「アライ(ally=「盟友」の意)」と呼ばれる支援者の藤田さんは「知り合いにLGBTが一人もいないので(支援で)何をしたらいいか、どんな発言に気をつけるべきか、最初はまるでわからなかった。そこで、LGBT当事者に直接、話を聞きに行くことにして、ようやく彼らの切実さがわかったんです。社内のLGBT研修などで、頭で理解しても、なかなか肌では実感できない」と自身の経験から、交流の大切さを指摘する。
同じくゴールドマン・サックスで「LGBTネットワーク」共同代表を務める三木さんが「ここ数年、LGBTという言葉をメディアで頻繁に見るようになりましたが、映画界でも変化は?」と問いかけると、『キャロル』配給・宣伝元のファントム・フィルム長壁さんは「女性同士の恋愛を扱う映画がヒットした例は、日本でほとんどなかったと思いますが、脚本段階から素晴らしい作品になると思い、公開後もマイノリティー映画という枠にとらわれない反響を感じます」と映画ファンの関心の変化を話すも、「これほど評価の高い作品でありながら本作は、第88回アカデミー賞の作品賞、監督賞にノミネートされなかった。先月末に来日した(本作主演の)ケイト・ブランシェットさんもインタビューで、『監督のトッド・ヘインズがゲイを公認していること、映画の内容が女性同士の恋愛を描いていることが多くのアカデミー会員にまだ受け入れられていない』と語っていましたが、一方で『キャロル』が前進のきっかけとなれば」とコメント。
また、藤田さんは「昨年、アメリカで画期的な最高裁判決(米全州で同性婚を合憲とした)があり、LGBTにとって大きな年になりました。現実は厳しいかもしれませんが、でも勇気づけられる流れもある」と前向きに語っていた。映画『キャロル』は、1950年代のニューヨークを舞台に、ケイト演じるキャロルとルーニー・マーラ演じるテレーズの強く惹かれ合う恋愛と、時代がそれを許さない運命を、美しい映像とともに描く。第88回アカデミー賞で主演女優賞、助演女優賞を含む、全6部門にノミネートされている。(取材・岸田智)
映画『キャロル』は全国公開中