役者のアドリブを許さない理由は?希代の劇作家・監督が明かすこだわり
監督デビュー作『その夜の侍』で新藤兼人賞金賞を受賞するなど高い評価を受け、前作と同じく自らの同名戯曲を映画化した第2作『葛城事件』が公開中の赤堀雅秋が、その演出法を明かした。
劇団「THE SHAMPOO HAT」で作・演出を務めるほか、外部公演でも活躍している赤堀だが、映画においては俳優として多数出演していても、監督や脚本を手掛けるのはまだ2作目。しかし前作も含め、新人監督とは思えない作品に仕上がっている。脚本や芝居の演出のうまさは舞台で磨いてきたものだろうが、映像演出についての秘訣とは?「経験値がないぶん下準備をしておきたいので、クランクイン前にカメラマンや助監督やスクリプターといったスタッフを集めて、カット割りを一緒に考えるんです。自分が考えてきたものに意見を言ってもらい、その中でコンセンサスをとりながら、イメージを共有していこうと」。
スタッフからは、「こんな経験ないけど、面白いやり方だ」と言ってもらえたそうで、「どういうふうに今までの映画にはない場面を作れるだろうかと過去の作品なども参考にしながら話し合うんです。だから現場で細かい指示をできなくても事前にイメージの共有ができ、スタッフに任せられる」のだとか。またこの手法は「時間もお金もない現場なので、どうやってクオリティーのあるものを作るかと考えた」そうだが、慣れてきた現在も確かな手応えを感じており、今後も続ける予定だという。
また、自身の演出スタイルに関しては、俳優の血肉となった芝居を求めるもののアドリブをよしとせず、「僕はセリフを変えてほしくないタイプの脚本家で、演出家」と言い切る。「要は変えてしまうと、役者本人の生理の方に近付いてしまうんです。セリフの縛りの中でやってこそ、他人になれるような気がして。自由に語尾や言葉の順番を変えていいよとなると、演者が気持ちよくやっているだけのことになってしまい、一見演じているように見えても、その人物にはなっていないと思うんです」と脚本家兼監督ならではのこだわりを見せる。
自らの台本については、「曖昧模糊とした表現ばかりなので、行間を読むのが難しい台本だと思う」と述べるが、それをくみ取ってくれた主演の三浦友和には全幅の信頼を寄せていた。「台本のあらゆる喜怒哀楽では分類できない感情を体現してくださって、すごい人だなと。衣装合わせの時点から言葉を交わさなくても、わかってくださっているのを感じた。現場に入ったときには完全に葛城清になっていて、テイクごとに隣のスタッフに『いいねいいね!』と言いながら撮影が進んでいき、幸福な時間でした」と初タッグながらも唯一無二のキャスティングだったことも明かした。(取材・文:天本伸一郎)
映画『葛城事件』は上映中