サンセバスチャン映画祭でETA乱入事件 ステージで男が取り押さえられる
スペイン最大規模となる第64回サンセバスチャン国際映画祭が現地時間16日に開幕し、オープニングセレモニーでバスク地方のスペイン独立を目指すETA(バスク祖国と自由)のメンバーがステージに乱入する事件が起こった。即座に警備員に取り押さえられたために事なきを得たが、東宝株式会社の島谷能成社長ら各国の多数のセレブが列席しており、関係者を一瞬冷やりとさせた。
オープニングセレモニーは現地時間21時からメイン会場のクルサールでスタート。今年のコンペティション部門や審査員らが紹介される中、会場から「ETA! ETA!」と旗を持って叫ぶ男が現れた。係員に退場を促されたが、その隙を狙ってステージへ。なぜかズボンを脱いで下着姿をさらしながら、EATの旗を掲げて客席に向かってアピール。追ってきた係員に捕らえられ、強制退場させられた。
ステージにはちょうど、今年の特集上映の一つ、ジャック・ベッケル回顧特集を紹介すべく、フランスのベルトラン・タヴェルニエ監督がいた。だがタヴェルニエ監督は目の前のハプニングに動じることなく「ファンタスティックな映画祭だね」と笑い飛ばし、観客も動揺することなくそのままセレモニーは進行した。
フランシスコ・フランコの独裁政権下に誕生したETAは1960年代から武装闘争を行い、バスク=テロというイメージが根付いた。その負の歴史から脱却するため、特にサンセバスチャンは海と山に面した恵まれた風土から獲れる農・海産物を生かした食文化を育み、街の景観美化に努めて治安を向上させ、いまやスペイン屈指の観光地となった。ETAも2011年に休戦を発表している。
一方でEATと関係が深いと言われているEH Bildu(バスク統一党)が2012年のバスク自治州議会選挙で第2党に躍進するなど、いまだ独立を支持する人も多い。9月25日にはそのバスク自治州議会を控えていることから、スペイン全土でテレビ生中継されるオープニング・セレモニーを狙って、この日のパフォーマンスを決行したようだ。もっとも映画祭側はその後も警備を強化することもなく、平常運営を継続している。
ただ今年は、多発するテロ事件などの世相を反映して、映画を通して暴力の歴史を考察する特集上映「ジ・アクト・オブ・キリング」を実施中。上映作32作の中にはETAをテーマにした『ザ・ライト・アット・ジ・エンド・オブ・ザ・トンネル・イン・バスク・カントリー(英題)/ The Light at the End of the Tunnel in the Basque Country』(スペイン)なども含まれている。暴力の脅威を知る街だからこその世界に向けた勇気ある企画だが、それに水を差すかのような一件となってしまった。(取材・文:中山治美)
第64回サンセバスチャン国際映画祭は9月24日まで開催