『ラ・ラ・ランド』のオープニングは多様性を象徴する名シーン!
第89回アカデミー賞
昨年9月にベネチア国際映画祭のオープニングを飾り、エマ・ストーンが女優賞に輝いたのを皮切りに各映画賞で圧倒的な強さを見せ、アカデミー賞では『イヴの総て』(1950)、『タイタニック』(1997)と並ぶ歴代最多タイの14ノミネートを記録した『ラ・ラ・ランド』。LA=ロサンゼルスを舞台に、それぞれ夢を抱えた男女の恋を描いたミュージカル映画だ。(冨永由紀)
【動画】アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた「City of Stars」ライアン・ゴズリング歌唱シーン
とにかく圧巻なのはオープニング。シネマスコープ画面いっぱいに、高速道路の渋滞にはまった車列から女性が1人飛び出し、歌って踊りだす。すると周囲の人々も次々に続いて……という展開は、往年のミュージカル映画を思わせると同時に、今の若い世代にはフラッシュモブのように映るのかも。しかも、主人公たちの独壇場ではなく、人種も性別も体形も、絵に描いたようにさまざまな人々が群舞する様子は、昨年度のノミネーション発表直後に巻き起こった「Oscar So White」論争のキーワードとなった“多様性”をそのまま映像化したようで、ハリウッドの現状、そして図らずも2017年1月からスタートした新政権に対するメッセージにもなっている。(ちなみにこのシーンが撮影されたのは2015年8月)
LA生活の現実と夢をワンカットで見せる開巻に、最初からこんなにハードルを高くして大丈夫か? と心配になるが、それは杞憂。歌やダンスとドラマ部分のメリハリを利かせて、本物のジャズを演奏できる自分の店を持ちたいと願うミュージシャンのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と、映画スタジオ内のカフェでアルバイトをしながら、連日オーディションに落ち続ける女優志望のミア(エマ・ストーン)の恋愛が描かれていく。展開はオーソドックスながら、美しい夕景をバックにした2人のタップダンスなどドリーミーな描写とリアルな恋愛の紆余曲折を共存させるためにもミュージカルという様式は最良の選択だ。
ミュージカルというジャンルに留まらない映画の名作の数々への目配せを探すのも楽しい。オープニングだけでも、フランスのミュージカル映画の傑作『ロシュフォールの恋人たち』(1966年、ジャック・ドゥミ監督)から『ウイークエンド』(1967年、ジャン=リュック・ゴダール)、マイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』(1993)まで。その後もあらゆる瞬間に名作の影を見出すことができる。35ミリフィルムで撮影し、色調もレトロ風味だが、ノスタルジーに浸りすぎない現代の物語として成立している。
賞レースを独走状態で、全米プロデューサー組合(PGA)賞も受賞。過去27本ある同賞受賞作のうち19本がアカデミー賞作品賞に輝いていることから、今年のオスカー制覇はほぼ間違いなしと見られている。デイミアン・チャゼル監督が受賞すれば、1980年代生まれの監督として初受賞。伝統を継承しつつ、ハリウッドも本格的な世代交代の時期を迎えている。