収益の一部を30年にわたり寄付 巨匠ケン・ローチ新作『ダニエル・ブレイク』基金設立で持論
第69回カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得したケン・ローチ監督の最新作『わたしは、ダニエル・ブレイク』のチャリティー先行上映会が13日、ヒューマントラストシネマ有楽町で行われ、同作の収益の一部を貧困に苦しむ人々のために寄付することが発表された。
厳しい現実の中にも、常に弱者に寄り添った優しいまなざしで人間の尊厳を描き出してきたイギリスの巨匠ケン・ローチ監督最新作となる本作。心臓の病気で働けなくなったダニエルが、2人の子供を抱えたシングルマザーのケイティと出会い、やがて家族のような絆を深めていくさまを活写する。
働きたいのに働くこともできず、明日への不安に押しつぶされそうな貧困の現状を映し出し、政府の緊縮政策と複雑な制度を痛烈に批判した本作。「誰もが享受すべき、生きるために最低限の尊厳」「人を思いやる気持ち」というテーマに賛同した日本の配給元を中心とした関係者が、このたび「ダニエル・ブレイク」基金を設立。同作の劇場公開時には、有料入場者1名につき50円を寄付金にあてることを筆頭に、DVDやブルーレイ、テレビ放映、配信、ホール上映などでの収益の一部を、日本の配給会社が上映権を保有する30年間にわたって、貧困に苦しむ人々を援助する団体に寄付することを宣言した。
このプロジェクトに対して、ビデオメッセージを寄せたケン・ローチ監督は「この映画の登場人物のような人たちを助けるために、チャリティーを申し出てくださったことに拍手を送ります」とねぎらいつつも、「ひとつだけ付け加えたいのは、ともかくチャリティーは一時的であるべきだということ。ともすると、チャリティーというものは不公正を隠してしまいがちだが、むしろ不公正の是正こそが最終目的であることを忘れてはならない」とキッパリ。さらに「チャリティーの寄付金が政府のツケを払ってくれるとみなされると、不公正が絶えず、貧困が止まらず、困窮する人が減らない。それは間違っているし、不当な状況は変えなきゃいけない。つまり、チャリティーと同じくらいに、政治に働きかけることも大事なのです」とチャリティーだけでは根本的解決方法にならないのだと語った。
本作がパルムドールを獲得した昨年のカンヌ国際映画祭授賞式を放送した映画専門チャンネル「ムービープラス」と「女性チャンネル♪LaLa TV」が主催したこのチャリティー先行上映会では、鑑賞料金全額と、劇場に設置された募金箱に集まった寄付金全ても、貧困に苦しむ団体に寄付することも合わせて発表された。トークショーに登壇したブロードキャスターのピーター・バラカンは、「ケン・ローチがよく言っていますが、資本主義がいきすぎて暮らしにくい世の中になっています。企業もどんどん安く人を使おうとするから、このような社会、経済の問題が深刻化している。そこから移民の問題にもつながってきます。イギリスのEU離脱、トランプ政権誕生など、まさに今の時代だからこそ、この映画は必要」と呼びかけた。
またヒューマントラストシネマ有楽町では、本作劇中で食料や日用品がチャリティーで支給されるフードバンクが印象的に描かれていることを受けて、3月18日、19日、20日、25日、26日の12時から17時まで、観客から賞味期限1か月以上ある缶詰を持ち寄ってもらい、施設やフードバンクなどに寄付。食料を必要としている人に再分配する「フードドライブ」と呼ばれる活動を行うことも発表された。(取材・文:壬生智裕)
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』は3月18日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開