アカデミー賞作品賞『ムーンライト』かつてない色彩美はこうして生まれた!
第89回アカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞した映画『ムーンライト』から、“今まで観たことがない美しい色彩”などと高い評価を受けている本作の色彩に迫る秘密が明らかになった。
アカデミー賞にて、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニングまたはクィアの頭文字をあわせたセクシャルマイノリティーの呼称)のラブストーリーが作品賞を受賞したのは本作が史上初、さらに黒人だけのキャスト・監督・脚本家による作品が作品賞に輝いたのも史上初。そんな2つの史上初を達成した本作は、自分の居場所を探し求める主人公シャロンの姿を3つの時代にわけつづった愛の物語だ。
3つの時代のシャロンをそれぞれ演じた3人の俳優や、アカデミー賞助演男優賞に輝いたマハーシャラ・アリ、『007』シリーズのナオミ・ハリスなど、俳優陣の演技が称賛されている一方で、色彩豊かな映像美も高く評価されている。バリー・ジェンキンス監督と撮影監督のジェームズ・ラクストンは、本作を「社会問題を扱うドキュメンタリーのようにリアルな質感で描くつもりは全く無かった」と切り出す。彼らは、観る者がスクリーンに没頭してしまうように、美しく描くことを目的にしていたのだ。アフリカ系である登場人物の肌はブロンズ像のように美しく輝き、舞台であるフロリダの日差しはまるでスクリーンから観客に差し込むように描かれているのが印象的だ。
また、ジェンキンス監督&ジェームズとともに、独特の映像をつくり上げるために活躍したのが、撮影した映像の色彩を加工するカラーリスト、アレックス・ビッケルだ。アレックスは撮影された映像のコントラストを極端に上げ、黒色には撮影時には存在しないブルーを足すことで、今まで観たことがないような鮮やかで美しい色を引き出した。中でも、主人公シャロンが、思いを寄せる同級生ケヴィンとはじめて触れ合う月夜の浜辺でのシーンは、本作の原案である戯曲のタイトル「In Moonlight Black Boys Look Blue」(月明りで黒人の少年たちは青く見える)にふさわしい美しさになっている。“ムーンライトブルー”とも呼ぶべき、唯一無二の映像美で少年の忘れられない想い出が映し出されていく。
さらには、全編デジタルで撮影されている本作だが、カラーリストのアレックスは章ごとに、異なるフィルムによる効果をデジタルで再現することにこだわった。主人公シャロンの幼少期を描く第一章では、富士フィルムのストックを再現。少し温かい印象を与え、登場人物の肌の色調もよりはっきりと表現されている。シャロンがただ一人安心できた大人・フアンとの日々がこの色彩で描かれている。青年期を描く第二章では、ハイライトにシアン(緑がかった青色)が加わることで知られていたアグフア社のデッドストックのフィルムを再現。シャロンとケヴィンがはじめて触れ合う、月明かりが輝く海辺のシーンにもその効果が用いられている。成人期を描く第三章では、コダック社のフィルムの種類。アレックスによるとこのフィルムは“抑制”されておらず、前二章よりさらにキラキラしたイメージをもたらしているという。ストーリーの流れに合わせ、徹底的に再現されたフィルムの効果にも注目したい一作だ。(編集部・石神恵美子)
映画『ムーンライト』は3月31日よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開