高橋一生、恩人の存在を告白「顔に傷がある俳優が好きと言ってくれた」
原作が未完であることからラストも気になる『3月のライオン 後編』(上映中)。幼少期に両親と妹を亡くして以来、父の友人だった棋士のもとで育てられ、やがて自立した17歳のプロ棋士・零(神木隆之介)の闘いは、後編にきてさらに過酷になる。そんな彼を支え続ける高校の担任教師・林田高志を演じたのは大ヒット映画『シン・ゴジラ』(2016)を皮切りに人気急上昇中の高橋一生。本作で彼と初タッグを組んだ大友啓史監督が、林田のキャラクターとともに高橋の唯一無二の魅力を語った。
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プロ棋士になる道を挫折して以来、零に愛憎を抱く義姉・香子(有村架純)は妻子持ちの後藤九段(伊藤英明)と不倫関係を続け、零の救いとなった川本家3姉妹は家を捨てた父親(伊勢谷友介)の存在に苦しみ、零はそんな彼女たちを救うべく奔走するも自分の非力さを思い知らされることになる。それでも、何気ないひと言や行動で彼の支えになっているのが林田だ。
「基本的には林田先生のシーンは緩急の『緩』に見えるけど、その中で緩く(零の)ためになることを言っているんですよね。気付く人は気付くし、気付かない人は気付かないぐらいの微妙なニュアンスで」と零にとっての林田の存在の大きさを指摘する大友監督。「でも、僕も高校の時そうだったけど上から目線で言われると『お前に何がわかるんだよ』って言いたくなる。だけれど林田先生は絶対そういう言い方をしない。零にとって、いわば兄貴分みたいな存在」と林田の人物像を説明し、彼の人柄が表れているとして「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という宇宙飛行士ニール・アームストロングの名言をつぶやくシーンを挙げる。
一方、高橋は林田というキャラクターを、「教師として、零と時には愚痴も言えてしまったり、授業を度外視してでも棋士としての務めを優先させるように人として向き合ったり。この二つを自然と同居させられるのが彼の魅力」と分析。「要所要所で零を後押しする、救いになるであろう言葉を投げ掛けていますが、それをいかに上から目線ではなく言えるか」が重要だったと言い、「膝をついちゃっている人に立ち上がれって言うときに、自分も膝をついて言えるか、そうしないかで優しさの質が違ってくると思うんです。もちろん、教師として上から立てと言わなきゃいけない時もあるんでしょうけれど、零君に対してはそうではないと感覚的にわかっているんじゃないかと」と零と接するときの“立ち位置”“目線”へのこだわりを明かす。
さらに、「僕もそうやって救われたことが人生においてたくさんあって、どれも何気ないひと言だったんです。僕、顔に傷があるんですが、ある演出家の方が『俺、顔に傷がある俳優好きなんだよ』と言ってくださった」と自身の救いになった恩人のエピソードを告白する高橋。「その場で立ち上がれなくてもいいと思うんです。後で自分でよっこらしょって立ち上がるのでもいいわけで。そういった出来事が僕の人生に断片的にあって、それをいかに林田っていうフィルターを通して、零君に自然に言えるかっていうのは林田の人間性を作っていくうえで、考えていたところです」。
そんな高橋を、「生活感があって、グラデーションがある」と高く評価する大友監督。「例えば、零君のように相手がつらいときにどのぐらい寄り添うのか、どのぐらい突き放すのかを考えたときにイチかゼロかしかない人もいる。わかりやすく言えば、悲しい=泣くとは限らない。刻みで1.2、1.3、1.45……とかそういう微妙なさじがあると思うんですよ。さらに、それは現場での共演者の温度によっても変わってきたりするものだから、その場で反応する能力も必要になってくるわけで。僕はそういう芝居を観るのが好きだったりするんだよね」ときめ細やかな表現力を備えた高橋に賛辞を贈った。(取材・文:編集部 石井百合子)