実写化で盛り上がる邦画界 フジ映画Pの想い
綾瀬はるかと坂口健太郎が共演する映画『今夜、ロマンス劇場で』(ワーナー・ブラザース映画配給)が来年2月に公開を控える。マンガや小説の実写化があふれる昨今だが、本作は原作モノではない映画オリジナル。「映画でしか描けない物語を作りたかった」と本作を企画したフジテレビの稲葉直人プロデューサーが、この作品に懸ける思いとは。
本作は、映画監督を目指す青年・健司(坂口)と、モノクロ映画の中からやって来たお姫さま・美雪(綾瀬)の不思議な恋愛模様を描くラブストーリー。ある日、いきなりスクリーンから飛び出してきた憧れのヒロインを目の前に戸惑いながらも、モノクロの世界しか知らない彼女にカラフルな現実世界を案内する健司。次第に惹かれ合っていく二人だったが、美雪には健司の愛を受け入れることができない秘密があった。それは、人の温もりに触れると消えてしまうこと……。
幼いころから映画が好きで、12歳の時に観た『ニュー・シネマ・パラダイス』がきっかけで「いつか自分も映画愛を詰め込んだような映画を作りたい」と思うようになったと語る稲葉プロデューサー。これまで『テルマエ・ロマエ』や『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』などの大ヒット作を手掛けてきたことで知られるが、この企画は9年前から温めてきたものだったという。
企画が実現するまでそれだけの年月がかかった理由について、稲葉プロデューサーは「一つには坂口健太郎という役者が現れるのを待っていたということがあります。健司という役にぴったりの俳優さんがなかなかいないと悩んでいたので。なので坂口さんをはじめて見たときに『いた!』と(笑)。あとは、オリジナル企画を成立させることが今の邦画界ではとても難しいということです」と裏事情を明かす。
さらに「僕もマンガ原作の映画をやっているので、あまり偉そうなことは言えないんですけど」と前置きしつつ、「今はどの会社も原作ありきで企画を探してるような気がします。その方がお金が集まりやすいですし、企画も通りやすいので。原作があること自体は決して悪い事ではないのですが、そればかりになってしまうのは映画ファンとしても寂しく思います。もっと映画館だけでしか味わえない物語があってもよいのではないかと」と人気マンガなどの実写化ばかりに頼る映画界を危惧する。
それだけに本作に懸ける思いはことさら強い。「うちの会社でも是枝(裕和)監督や三谷(幸喜)監督のオリジナル作品をやっていますが、全体の割合からするとまだ少ない。それにめぼしい原作はあらかた映像化されてしまっています。今回の映画はラブストーリーですが、恋愛映画といえば今は多くが少女マンガ原作です。もっと幅広い世代が観られる恋愛映画があった方がいいはずですし、邦画全体にももっと多様性があった方がいいと思うんです。このままだと邦画が先細りになるのではないか、そんな想いが偉そうにもありまして」。
もちろん、オリジナルで勝負することに不安がないわけではない。「原作があった方が有利なことは間違いないです。すでに高い認知度があるわけですから。でもそこに甘えてばかりもいられない。少しでも邦画の可能性を広げないと。だからこそ今回オリジナルで成功させて『次』につなげないといけないと思うんです。あ、また偉そうですね」と笑う稲葉プロデューサー。
「この物語を考えるとき、小説よりもマンガよりも絶対に映画で観る方が面白いストーリーにしたいと思って作りました。大きなスクリーンで(映画館の)空間にこもって映像で観て初めて面白いもの、色彩的な遊び心やCGなど、文字では感じられない、マンガだけでは感じ取れないものになると思うので、それは明確に意識してやっています。ぜひ映画館に来て観てほしいですね」と熱い映画愛をのぞかせた。(取材・文:編集部・中山雄一朗)
映画『今夜、ロマンス劇場で』は2018年2月10日より全国公開