のん『この世界の片隅に』で変わったこと…長尺版には愛憎劇も
女優・のんが声優を務め、日本でロングラン中のアニメーション映画『この世界の片隅に』。3月15日よりNetflixにて日本をはじめ世界約30か国でスタートし、長尺版の制作も決定するなど、公開から1年半を経た今も、その存在感は増すばかりだ。「この作品を愛してくださった皆さまに感謝の気持ちを伝えたい」とつのる思いを明かしたのんが、あらためてこの作品に携わったことの意義、自身に与えた影響、そして長尺版出演を含めた今後の活動について真摯に語った。
本作は、「長い道」「夕凪の街 桜の国」などで知られる漫画家・こうの史代のコミックを、片渕須直監督がアニメ化した作品。戦時中の広島県呉市を舞台に、ある一家に嫁いだ少女・すず(のん)が激しい戦禍の中で懸命に生き抜こうとする姿を追い掛ける。「すずさんは、わたしにとって、一緒に作品を作った同志のような存在」とかみしめるように語るのん。振り返れば、原作を読み、パイロット版の映像を観たとき、「これはきっと、ものすごい作品になる。絶対にわたしが演じたい!」と心の中に強い気持ちが生まれたのだという。
のんにとっては、まさに運命の出会い。この作品に携わったことによって自身の周囲にも大きな変化があったのだろうか。「すずさん役で初めてわたしのことを知ってくださった世代の方もいらっしゃると思いますが、たくさんの方に劇場に足を運んでいただいて、『のん』という存在を認識していただいたことが何よりもうれしかった」としみじみ。さらに、「行く先々でこの映画の演技を褒めていただくことが多く、今まで挑戦したことのなかった朗読やナレーションなどのお仕事が増えたこともすごく新鮮でした」と喜びをあらわにした。
のん自身が変わったこと、あるいはこの作品から学んだことについては、「暮らしの変化」を挙げる。「以前は、生活するのが下手なタイプだったんです。お仕事のない日はとにかくルーズで、ごはんに興味がなかったというか、3食きっちり食べることもありませんでした。とにかくポテトチップスが大好きで(笑)」と自由すぎるライフスタイルがいかにも現代っ子で、アーチスト肌。ところが、この作品と出会い、暮らしが180度一変。「すずさんに影響を受けて、ごはんを作って、みんなで食べることがすごく楽しくなってきて。今では、食べることの楽しさはもとより、洗濯や掃除など、家事をしてる時の達成感も得られるようになりました」と“新生”のんをアピールした。
そして今回、Netflixによって日本を飛び出し、海外でもファンを増やしているという本作。「日本だけでなく、世界のいろんな人たちに観ていただけることに、素直に感動しています」とニッコリ。さらに、片渕監督によって、本作の長尺版の制作が進められているそうだが、今回、原作で描かれていた親友の遊女・白木リンをめぐる、すずと夫・周作との愛憎劇にも挑戦するというのん。
「原作を読んで、一番好きだったリンさんとのシーンが追加されるということでワクワクしています」と目を輝かせる。ただし、演じる上では心配な面も。「絵が大好きで、子供っぽい部分は、すずさんに似たものを感じるのですが、リンさんとの友情がだんだん大人っぽい色に染まっていく部分を演じなければならないので……ここはわたしにとって一番苦手な部分。自分の中にないものを演じなければならないので、ドキドキ緊張していますが、気合を入れてがんばります!」と意気込んだ。
さらにのんは、この作品がここまで愛され続けているのは、「片渕監督が今でも映画館を巡ってご挨拶されて作品の魅力を伝えているということ、そして観てくださった方々が製作者の一員のように声を上げてくれたことも大きい」と語る。「観客の皆さんと製作者が同じ気持ちになって、この作品に『自信』を持てていることがすてき。本当に感謝の言葉しかありません」と襟を正す。女優はもとより、ミュージシャン、アーチストとしても活動のフィールドを広げており、「映画はまだまだ続きますし、音楽も、絵も、新しいものがどんどん発表されます。これからも『のん』にお付き合いいただき、応援していただけたらうれしいです!」と最後は満面の笑顔でアピールしていた。(取材・文・撮影:坂田正樹)
映画『この世界の片隅に』はNetflixにて配信中