『ノルウェイの森』以来の新作映画公開!村上春樹原作の映画に再注目
著作がことごとくベストセラーを記録し、ノーベル文学賞発表の時期には必ず話題に上る村上春樹。その人気と知名度に比して映像化作品は多くはないが、今年は映画『ハナレイ・ベイ』(10月19日公開)が『ノルウェイの森』以来、8年ぶりの映画化作品として公開される。そんな村上の小説を原作とする映画作品を紹介する。
村上作品の映画化1作目は『風の歌を聴け』(1981)。群像新人文学賞を受賞したデビュー作で、『ヒポクラテスたち』の大森一樹監督がメガホンを取り、小林薫が主演を務めた。大森は村上と同じく兵庫県芦屋市の出身で、中学校の後輩でもあるという間柄。原作が1979年に発表されたことを考えると、きわめて早い時期での映画化といえるが、主要キャストに音楽家の坂田明や巻上公一が名を連ねていることや、ATG(日本アート・シアター・ギルド)が製作していることも興味深い。
その後の映画化作品は、短編小説を原作としたものが続く。大ベストセラーとなった「ノルウェイの森」が刊行された翌年の1988年に、『小津の秋』などの野村恵一監督が「土の中の彼女の小さな犬」を初監督作品『森の向う側』として映画化したほか、前衛的な作風で知られる山川直人監督が「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(映画の題名は『100%の女の子』)、「パン屋襲撃」を短編映画化している。
80年代から90年代にかけて村上は、長編小説「ダンス・ダンス・ダンス」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」など話題作を提供し続けているが、映画化作品は90年代にはない。2004年に『つぐみ』などの市川準監督が、短編集「レキシントンの幽霊」所収の小説を基に『トニー滝谷』を手掛け、イッセー尾形と宮沢りえが共演。坂本龍一が音楽を担当した同作は、第57回ロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど高く評価された。そして、2008年にはアメリカ製作で『神の子どもたちはみな踊る』が映画化され、2010年に日本に“逆輸入”されている。
そして2010年に、小説の発売から23年の時を経て『ノルウェイの森』が公開。『青いパパイヤの香り』などのトラン・アン・ユン監督がメガホンを取り、松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾、玉山鉄二、霧島れいから豪華なメンツが顔をそろえた。原作に大いに思い入れのあったというトラン監督が、ストーリーやセリフまわしをきわめて忠実に再現。公開初週の興行収入ランキングにおいて、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』『SPACE BATTLESHIP ヤマト』に次ぐ3位を記録した(興行通信社調べ)。
今年は、村上作品から2作が映画化。『トイレのピエタ』などの松永大司が監督を務める『ハナレイ・ベイ』では、吉田羊、佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、村上虹郎、栗原類らが共演する。短編集「東京奇譚集」に収められた同名小説を原作とする本作は、息子のタカシ(佐野)がハワイのハナレイ・ベイでサーフィン中に事故に遭い、死んだことを知ったシングルマザーのサチ(吉田)が主人公。事故から10年、毎年息子の命日にハナレイ・ベイを訪れるサチは、サーファーの高橋(村上)から片脚のサーファーの存在を聞き、人生を変える一歩を踏み出していく。
さらに韓国では、ミステリー映画『バーニング / Burning』が上映中。短編小説「納屋を焼く」を原案にし、『ポエトリー アグネスの詩(うた)』以来、約8年ぶりにイ・チャンドン監督がメガホンを取った注目作だ。海外ドラマ「ウォーキング・デッド」のグレン役で人気を博したスティーヴン・ユァンが出演する本作は、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。日本での上映などは未決定だが、今後の続報に期待したい。
国際的に評価され、世界的に熱狂的なファンを持つ村上だが、人気の要因ともいえる独自の文体や壮大な物語世界、メタフォリカルな表現のためか、映像化へのハードルは高いようで代表作の映画化は多くない。そんな村上が、初めてDJを務めるラジオ番組「村上RADIO~RUN&SONGS~」が8月5日に放送されるということで、話題になっている。これまで国内のテレビやラジオ番組には出演したことがないという人気作家のメディア登場には、今から期待が高まる。(編集部・大内啓輔)