ハンディキャップのある人を好きになる1,000の理由がテーマのアニメ映画祭開催
フランスで“アニメーションの希望”(フランス語で レ・エスポワール・デュ・ラニマシオン / Les Espoirs de l'Animation)と題した映画祭が17回を迎え、先ごろ開催された第42回アヌシー国際アニメーション映画祭で授賞式が行われた。出品者は学生が対象で、今年のテーマは「ハンディキャップのある人を尊重または好きになる1,000の理由、しかし、それだけではないけれど」。同国ではアニメ制作の技術だけでなく、心の教育にも力を入れているようだ。
同映画祭はフランスのテレビ局Canal J、GULLI、Tijiが主催し、フランス国立・映像センター(CNC)やフランス劇作家・劇音楽家協会(SACD)、アニメーション映画製作協会(SPFA)が全面サポートしている。
フランスのアニメーション学校で学ぶ学生たちへの体験学習を目的としており、毎年、テーマに沿った1分間のアニメーション作品を募集。受賞作はアヌシーで上映されるほか、主催のテレビ局でフランス全土で放送される。
これまでのテーマは、2014年が「ナンセンス」、2015年が「すべて同じ、すべて違う」、2016年が「みんなの惑星」、2017年は「接続時代:デジタルキッズ」。例年、禅問答のような難題だ。そして今年は、2017年にフランスで出版された児童書「Nos coeurs tordus」(「私たちのねじれた心」の意味)の一文から抜粋したものだという。
その本の中には、著書の一人であるセヴェリーヌ・ビダルがハンディキャップのある少年とのエピソードが書かれており、その彼は非常に知性とユーモアにあふれており、著書は彼を語る上でハンディは重要ではないことをつづっているという。その文章にインスパイアされ、彼らにも私たちと同じように夢や個性があることを考えてほしいと、このテーマを設けたようだ。
今年は5校に参加を呼びかけたところ、87作品の応募があり、最終選考に残った34作品がアヌシーで上映された。どの作品も声高にハンディを持つ人への理解を求めたり、差別解消を訴えるような内容ではない。むしろハンディを一つの特性と捉え、彼らが思わぬ活躍をしたり、そこから周囲との交流が生まれるなど、さりげない優しさが胸に響く作品ばかり。
例えばプロフェッショナル審査員賞を受賞した1本、『レ・ヴァコンス(原題) / les vacances』は、盲目の少年が主人公。彼がクラスで休暇に何をしたのか? の報告をしたところ、表現力があり過ぎて、クラスメイトみんなを空想の世界へと導いてしまうほのぼのしたコメディー。インターネット投票で観客賞を受賞した『カヴァリエール・ダシェール(原題) / CAVALIER D'ACIER』は、村を救った騎士が、実はハンディキャップを背負っていたという内容だ。
受賞者の一人は「ハンディキャップというテーマを与えられた時、それは自分の体験や内側と向き合う作業だった」と創作過程の苦悩を涙ながらに語っていた。フランスでは建築や彫刻と並んで、映画が第7、漫画は先ごろルーヴル美術館が第9の芸術とする展覧会を開催し、それが認識されつつあるが、そんな芸術への理解が本映画祭のような企画を生み、着実に希望の若手の育成へと繋がっているようだ。
なお、最終選考に残った34作品は、公式サイトからも視聴可能(フランス語のみ)。(取材・文:中山治美)
■Les Espoirs de l'Animation 公式サイト
http://lesespoirsdelanimation.gulli.fr/2018