コーエン兄弟の新作西部劇、執筆に25年!製作秘話を明かす
ニューヨーク映画祭に出品されているコーエン兄弟の話題作『ザ・バラード・オブ・バスター・スクラッグス(原題) / The Ballad of Buster Scruggs』について、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン、ゾーイ・カザン、ティム・ブレイク・ネルソンが、10月4日(現地時間)、ニューヨークのリンカーン・センターにあるウォルターリード・シアターで行われた記者会見で語った。
【作品写真】アカデミー賞にもノミネートされたコーエン兄弟の西部劇
本作は、アメリカ開拓時代を舞台にした、6本の短編作品で構成されている注目の西部劇。当初、Netflixで全6話のテレビシリーズとして手掛ける予定だったが、6つの短編で構成された長編映画になった。主人公には、ティムやゾーイのほか、ジェームズ・フランコやリーアム・ニーソンら演技派俳優が名を連ねている。
ジョエルいわく、執筆に約25年かけてしてきた作品だという本作。「1話目を最初に書いたんだ。ほぼ今作の短編の順番通りに執筆してきたよ。けれど、短編作品だったから、その後はずっと棚上げしたままだったし、製作することもないと思っていたんだ。でも、8年から10年前に、もしかしたら、これらの短編をまとめて、製作できるかもと思い始めたんだ」。
Netflixで同作のシリーズ化が企画されたことについては「あの集められた短編を、どのように分類するのかぼくらも含めて、誰も理解していなかったんだ。それに短編それぞれの長さは、もともと変えるつもりもなかったし、今作に含まれた短編以外の作品もなかったから、もともとグループのように集められた短編作品群を見せるつもりでいたんだ」と説明。それぞれ異なる6つの短編を一貫性のある一つのストーリーとして、つなげる気はなかったようだ。
「ただ短編は全て西部劇だから、描いてみた後に振り返ってみると、何らかのコネクションがあるように見えるかもしれないね。でも、それを意識的に最初からそうしようとは思っていなかったよ。(テレビ用でも、映画用でもなかった)不思議な形態から生まれた短編が、こういう形の長編作品になっていっただけなんだと思っているね」。今作がコーエン兄弟が意図した通りに出来上がった作品であることが伝わってくる。
それぞれの短編に出演していた俳優たちは、出来上がった作品全体をどのように捉えたのだろうか。ティムは、「ぼくらは短編の撮影前に、脚本全部を読むことができたんだ。6つの短編は全て西部劇ではあるものの、一つ一つの短編がサブジャンル(ドラマ、コメディー、アクション)に分かれている。それぞれが責任を感じて演じていたと思うよ。そして、その責任を理解し、他の出演者の(演技の)達成ぶりを目の当たりにしながら、適した演技をそれぞれが披露した。とてもやりがいのある作品になったんだ」と満足げに語った。
普段は自分が出演した映画の半分は、(恥ずかしくて)自ら顔を手で覆って観ているというゾーイは、今作では(短編1作だけの出演のため)映画の80%近くをまともに鑑賞できて良かったと明かす。「脚本でも気づいていたけれど、それぞれの短編は、夢のような要素を持ちながら倫理みたいなものでつながっているの。最後に死人が残されていく形で描かれた部分を実際に鑑賞してみて、ようやく何が行われているか理解できたわ」と感嘆の言葉を残した。
イーサンは、映画『トゥルー・グリット』『ヘイル、シーザー!』などでも音楽を手掛けている、作曲家カーター・バーウェルとの再タッグについて「西部劇であることは共通していても、それぞれの短編は異なっていて、音楽もどの程度、短編に合わせて別の楽曲を作れば良いのか、また逆に、どの程度短編をつなげるような楽曲を作れば良いのか、カーターとずいぶん長い間話し合ったんだ」と振り返る。最終的に、あまり短編をつなげるような楽曲は使われていないものの、タイトルで流れる序曲とエンドクレジットだけは、西部劇でなじみのあるものになっていると明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)